【ルトガー・ブレグマン】「隷属なき道 AIとの競争に勝つベーシックインカムと一日三時間労働」第3章

オランダ出身の歴史家でジャーナリストであるルトガー ・ブレグマン(Rutger Bregman)の「隷属なき道 AIとの競争に勝つベーシックインカムと一日三時間労働」を、各章ごとに紹介しています。

第1章 過去最大の繁栄の中、最大の不幸に苦しむのはなぜか?

第2章 福祉はいらない、直接お金を与えればいい

第3章は、貧困と精神疾患、ハウジングファーストというホームレス対策について、主に書かれています。

隷属なき道 AIとの競争に勝つベーシックインカムと一日三時間労働

ルトガー ブレグマン 文藝春秋 2017-05-25
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第3章 貧困は個人のIQを13ポイントも低下させる

一晩、眠れなかった人も、アルコール依存症の人も、貧困の人も、13ポイントもIQが低下するのだそうです。

サッチャー元英国首相は、貧困を「人格の欠陥」と呼んだそうです。

世界的に、貧困は個人の問題で、本人が自力で克服するべき問題と考えられていますが、著者は、そのような見方では問題が解決しないことを示しています。

精神疾患は貧困の原因か、結果か

デューク大学のジェーン・コステロ教授が、1993年から10年間、貧困のなかで育った子どもと、そうでない子どもの問題行動に関する調査を行いました。

貧困家庭の子どもが問題行動を起こす傾向がかなり高いことは、19世紀以来、通説となっていましたが、ジェーン・コステロ教授の調査では、貧困から抜け出た子どもの問題行動は40%も減少し、貧しくない子どもと同じくらいになることがわかりました。

しかも、貧困から抜け出す年齢が早ければ早いほど、メンタルヘルスの状況が改善されるのです。

もっとも目立った改善は、経済的に豊かになったことで、親が親としての務めを果たせるようになったこと。

年間4000ドルの収入が増えたことで、親がより良い親になることを助け、金銭的な悩みに向けられていたエネルギーを子どもに向けることができるようになったのです。

ジェーン・コステロ教授の結論は、遺伝的に病気や不調を起こしやすい人に、貧困が加わると、その病気や不調が表面化しやすくなるということでした。

悪い遺伝子は消すことはできませんが、貧困をなくすことはできます。

貧しい人はなぜ愚かな判断をするのか?

ことわざに「貧すれば鈍す(る)」というものがあります。

意味は、「貧乏をすると、毎日その生活のことばかり考えるようになるから、人は知恵や頭の回転が衰えてしまい、賢い人でも愚かになること。また、暮しが貧しくなれば、心までも貧しくなるものだということ。」です。

著者は、貧しい人が愚かな判断をしがちなことについても、プリンストン大学の心理学者・エルダー・シャファーと、ハーバード大学の経済学者・センディール・ムライナサンとの研究結果について紹介し、その原因を探っています。

ふたりの研究者は「欠乏の科学」という、新しいジャンルを生み出そうとしているようなのですが、彼らは欠乏の心理状態について、次のようにあきらかにしています。

  • 何かが足りないことに気づくと、人はこれまでとは異なるふるまいをするようになる。
  • 欠乏感を抱いている人は、短期的な問題を処理するのがうまい。
  • 欠乏感は、長期的な視野を奪う。
  • 欠乏は人間を消耗させる。

これらの結論は、貧困には休みがなく、他にも重要なことがあるのに、そちらに気持ちを向けられなくなることが原因であるとしています。

その結果として、貧しい人々はが愚かな判断をするのは、愚かな判断に追い込まれる環境で暮らしているから、なのです。

欠乏は相対的な概念

ここで厄介なのは、欠乏とは、相対的な概念であるということです。

何が欲しいかは、周りの人が何を持っているかによって決まります。

そして、格差が広がり続ける限り、欠乏感も拡大し続けるのです。

格差社会に生きる人は、他人からどう見られるか、をとても気に掛けます。

そして、この思考が、人間関係の質を低下させると指摘します。

なぜなら、欠乏感をもっている人は、見知らぬ人への不信や、自分の地位(社会におけるポジション)に不安をもっていること。

さらに、不信や不安がストレスになって、欠乏感をもっている人は病気や慢性的な健康問題を抱えやすくなります。

健康問題を抱えている人に、より良い社交性をもとめることは、むずかしいのではないでしょうか。

さらに、「過度の不平等は経済成長を妨げる」と国際通貨基金は指摘しており、不平等が進むと、社会の流動性が下がります。

まわりまわって、裕福な人も、疑い深くなったり、気がふさいだり、社会的な問題を背負いやすくなります。

著者は、貧困を放置して、格差が拡大するままにしておくことの問題点を、このように明らかにしています。

低賃金を最も好んだ「重商主義」

近代初期の経済学者は、国は、他の国を犠牲にしなければ繁栄できないと考えていたそうです。

国の繁栄には輸出を増やし続ける必要があり、低賃金の労働は、国の競争力を高め、輸出を増加に導くと考えられていました。

これは、現代のグローバル経済にも通じる考え方です。

人件費や地価の安い国で生産し、安く供給する仕組みです。

この当時の経済学者であるバーナード・デ・マンデルは、
「奴隷を使うことが許されない自由な国において、最も頼りになる富が、大勢の勤勉な貧しい人であることは明白だ」
と述べたそうです。

最も頼りになる富である「大勢の勤勉な貧しい人」とは、日本で非正雇用ではたらく人々のことかしら?

と思ってしまうくらい、低賃金を好む「重商主義」は、現代の日本でも通じる考え方なのではないかと感じます。

住む場所を持つことが人間の権利になった

アメリカのユタ州では、ホームレスに無料の家を与えたほうが、福祉コストと比較して経済的にユタ州にプラスであるとして、ホームレスに無償でアパートを提供するようになり、他州にも広がってきているようです。

ユタ州では、住む場所を持つことが、人間としての権利となったのです。

実際のところ、空家が多いアメリカでは、ホームレスに無償提供できる住宅があるからこそ、できる政策です。

これを「ハウジングファースト」と呼んでいます。

日本も同様に、空き家が増えているという現実があり、ホームレス対策として、無償で住宅を提供したほうが安上がりなのかもしれません。

同じようにオランダでも、ホームレスを救済したところ、かかった家賃の2~3倍の利益をもたらすことがわかりました。

ホームレスがいる観光地より、ホームレスがいない観光地のほうが旅行者は安心して滞在できますから、オランダの経済効果の試算はよく理解できます。

つまり、ホームレスには家を!貧しい人にはお金を与えるべきなのです。


第4章につづきます。


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