オランダ出身の歴史家でジャーナリストであるルトガー ・ブレグマン(Rutger Bregman)の「隷属なき道 AIとの競争に勝つベーシックインカムと一日三時間労働」を、各章ごとに紹介しています。
第1章 過去最大の繁栄の中、最大の不幸に苦しむのはなぜか?
第2章 福祉はいらない、直接お金を与えればいい
第3章 貧困は個人のIQを13ポイントも低下させる
第4章 ニクソンの大いなる撤退
第5章は、GDP(国内総生産)のマジックについてです。
アベノミクスが成功していることの証として、安倍政権もよく説明に使っています。
しかし、このGDPが、いつ、どのような目的で発明されたのかについては、知らない人も多いのではないでしょうか。
かくいう私も、まったく知りませんでした (;´д`)トホホ
GDPが誕生した背景には、1929年に発生した世界大恐慌がありました。
ウォール街で株式が大暴落したことに端を発する世界的な不況のことで、その後、フーバーダムが景気刺激策としてつくられたり、ルーズベルトのニューディール政策が掲げられたり、というアメリカのその後を決定づけるような大きな出来事です。
時のフーバー大統領は、先を見通すことができる経済指標を持っておらず、1932年に議会は、若いロシア人教授のサイモン・クズネッツを雇い、アメリカはどれくらい多くのモノをつくることができるのかの答えを探させることにしました。
サイモン・クズネッツは、1971年にノーベル経済学賞を受賞しています。
GDPは、経済の総合的な尺度として、政策立案者が重要な目標にむかって舵取りする灯台のようなものになりました。
ところが、GDPの算出は、どれを算入して、どれを無視するか、数百の主観的な選択がなされているのだそうです。
たとえば環境汚染は、汚染している企業の売上高と、その汚染を除去する企業の売上高と、2重にGDPに貢献します。
精神疾患や肥満、犯罪もGDPにとっては多ければ多いほど良いため、商業文化に子どもを任せきりにしない、家族として機能している家庭はGDPへの貢献度が低いといえるのです。
GDPにとって理想的な市民とは、
そして銀行の生産性は、リスク(貸付額)が多ければ多いほど、GDPに占める割合が大きくなります。
たとえば、ボランティアや子育て、料理などの家事といった、無償の労働はGDPには含まれません。
無償の労働は、実は、労働全体の半分以上を占めているにも関わらず!です。
有料でアウトソースすればGDPに加算されますが、自分でやってしまうとGDPには加算されないからです。
経済学者のダイアン・コイルは、
「総じて公的な統計機関は、そうした無償労働をあえて数に入れようとはしない。おそらく、主に女性がそれらを担っているからだろう」
と断じています。
デンマークで、母乳育児のGDPを算出したところ、2013年の中国の軍事予算に匹敵する、年間1100奥ドルにも上ることがわかりました。
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いまでは、無料通話は当たり前になっていますが、インターネットの普及と利用の拡大によって、情報部門がGDPに占める割合は、インターネットが普及する前と変わらないのです。
GDPは、知識の進歩を計算することが苦手だからです。
人々の生活は、インターネットが普及して以降、格段に便利になりました。
コンピュータや携帯電話の価格は下がっていますが、その性能は向上しています。
しかし、そのメリットをGDPは計算できないのです。
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サービスを基盤とする経済では、GDPが示す指標は、経済の形を正確にとらえることができません。
日本ではあたりまえのきれいな空気や、お店で出てくる無料のおしぼりや水、おかわり自由といったサービスは、顧客がどのような場所・店を選択するのかを決める要素になっていますが、これらはGDPには加算されません。
サービスには、効率の向上を拒否する性質があります。
それは、人の幸せ、快適さなど、数字にあらわすことができない要素が多いことも一因ですが、それらの尺度が人によって異なることがもっとも大きな理由ではないでしょうか。
生産性の向上がむずかしく、しかし社会にとって欠かせないサービス(医療や教育)
にたいして、デンマークやスウェーデン、フィンランドのような国々は、助成金を出しています。
ルトガー・ブレグマンは、人生を価値あるものにする新しい指標が必要だと主張します。
それは、ダッシュボード(計器盤)のようなもので、お金や成長、社会奉仕、仕事、知識、社会的なつながりなど、GDPでは網羅していない事柄まで含めるべきだというのです。
サイモン・クズネッツは、GDPに関して、次のような警告を残しています。
「国家の富は、国民所得の数値からはほとんど推察できない」
「しかし、国民所得の数値はこの種の幻想を生み、ゆえに乱用される。とりわけ国民所得が扱うのは、複数の社会的集団の対立の原因になっている事柄であり、その対立では、問題を過剰に単純化したほうが、主張を訴えやすくなるからだ」
「さらなる成長を求める目標は、何のため、何の成長かをはっきりさせるべき」
サイモン・クズネッツは、GDPの算出に、軍事・広告・金融部門の支出を含めることを戒めました。
第6章につづきます。
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第1章 過去最大の繁栄の中、最大の不幸に苦しむのはなぜか?
第2章 福祉はいらない、直接お金を与えればいい
第3章 貧困は個人のIQを13ポイントも低下させる
第4章 ニクソンの大いなる撤退
第5章 GDPの大いなる詐術
第6章 ケインズが予測した週15時間労働の時代
第7章 優秀な人間が、銀行家ではなく研究者を選べば
第8章 AIとの競争には勝てない
第9章 国境を開くことで富は増大する
第10章 真実を見抜く1人の声が、集団の幻想を覚ます
終章 「負け犬の社会主義者」が忘れていること
第1章 過去最大の繁栄の中、最大の不幸に苦しむのはなぜか?
第2章 福祉はいらない、直接お金を与えればいい
第3章 貧困は個人のIQを13ポイントも低下させる
第4章 ニクソンの大いなる撤退
第5章は、GDP(国内総生産)のマジックについてです。
隷属なき道 AIとの競争に勝つベーシックインカムと一日三時間労働 | ||||
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第5章 GDPの大いなる詐術
ロシア人教授サイモン・クズネッツが発明したGDP(国内総生産)
日常的に、ニュースで耳にすることが多いGDP。アベノミクスが成功していることの証として、安倍政権もよく説明に使っています。
しかし、このGDPが、いつ、どのような目的で発明されたのかについては、知らない人も多いのではないでしょうか。
かくいう私も、まったく知りませんでした (;´д`)トホホ
GDPが誕生した背景には、1929年に発生した世界大恐慌がありました。
ウォール街で株式が大暴落したことに端を発する世界的な不況のことで、その後、フーバーダムが景気刺激策としてつくられたり、ルーズベルトのニューディール政策が掲げられたり、というアメリカのその後を決定づけるような大きな出来事です。
時のフーバー大統領は、先を見通すことができる経済指標を持っておらず、1932年に議会は、若いロシア人教授のサイモン・クズネッツを雇い、アメリカはどれくらい多くのモノをつくることができるのかの答えを探させることにしました。
サイモン・クズネッツは、1971年にノーベル経済学賞を受賞しています。
不況と戦争から、GDPは進歩を測る究極の尺度となる
世界恐慌のなか、経済の動向を測るために発明されたGDPでしたが、その後、度重なる戦争を経て、戦時における国力のすぐれた指標となることが判明してきます。GDPは、経済の総合的な尺度として、政策立案者が重要な目標にむかって舵取りする灯台のようなものになりました。
ところが、GDPの算出は、どれを算入して、どれを無視するか、数百の主観的な選択がなされているのだそうです。
たとえば環境汚染は、汚染している企業の売上高と、その汚染を除去する企業の売上高と、2重にGDPに貢献します。
精神疾患や肥満、犯罪もGDPにとっては多ければ多いほど良いため、商業文化に子どもを任せきりにしない、家族として機能している家庭はGDPへの貢献度が低いといえるのです。
GDPにとって理想的な市民とは、
- ガンを患い
- ギャンブル狂で
- 離婚調停が長引いているために
- 抗うつ剤を常用し
- ブラック・フライデー(クリスマスセールの初日)に買いまくる
ような人なのです。
そして銀行の生産性は、リスク(貸付額)が多ければ多いほど、GDPに占める割合が大きくなります。
GDPが見逃している労働とは?
GDPは、ある種の経済指標ではありますが、GDPでは測れない労働がたくさんあります。たとえば、ボランティアや子育て、料理などの家事といった、無償の労働はGDPには含まれません。
無償の労働は、実は、労働全体の半分以上を占めているにも関わらず!です。
有料でアウトソースすればGDPに加算されますが、自分でやってしまうとGDPには加算されないからです。
経済学者のダイアン・コイルは、
「総じて公的な統計機関は、そうした無償労働をあえて数に入れようとはしない。おそらく、主に女性がそれらを担っているからだろう」
と断じています。
デンマークで、母乳育児のGDPを算出したところ、2013年の中国の軍事予算に匹敵する、年間1100奥ドルにも上ることがわかりました。
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ITはGDPに貢献しない
たとえば、Skype(スカイプ)のような無料の製品は、通信会社の収益を大幅に損ない、経済の縮小という評価をもたらしかねません。いまでは、無料通話は当たり前になっていますが、インターネットの普及と利用の拡大によって、情報部門がGDPに占める割合は、インターネットが普及する前と変わらないのです。
GDPは、知識の進歩を計算することが苦手だからです。
人々の生活は、インターネットが普及して以降、格段に便利になりました。
コンピュータや携帯電話の価格は下がっていますが、その性能は向上しています。
しかし、そのメリットをGDPは計算できないのです。
人工知能特化型プログラミング学習サービス
現代の経済の形をとらえる新たな指標とは?
GDPは、今とは異なる時代に、異なる問題を扱うために発明された経済指標です。サービスを基盤とする経済では、GDPが示す指標は、経済の形を正確にとらえることができません。
日本ではあたりまえのきれいな空気や、お店で出てくる無料のおしぼりや水、おかわり自由といったサービスは、顧客がどのような場所・店を選択するのかを決める要素になっていますが、これらはGDPには加算されません。
サービスには、効率の向上を拒否する性質があります。
それは、人の幸せ、快適さなど、数字にあらわすことができない要素が多いことも一因ですが、それらの尺度が人によって異なることがもっとも大きな理由ではないでしょうか。
生産性の向上がむずかしく、しかし社会にとって欠かせないサービス(医療や教育)
にたいして、デンマークやスウェーデン、フィンランドのような国々は、助成金を出しています。
ルトガー・ブレグマンは、人生を価値あるものにする新しい指標が必要だと主張します。
それは、ダッシュボード(計器盤)のようなもので、お金や成長、社会奉仕、仕事、知識、社会的なつながりなど、GDPでは網羅していない事柄まで含めるべきだというのです。
サイモン・クズネッツの警告
GDPを発明したサイモン・クズネッツは、実は鳥類研究の専門家でした。サイモン・クズネッツは、GDPに関して、次のような警告を残しています。
「国家の富は、国民所得の数値からはほとんど推察できない」
「しかし、国民所得の数値はこの種の幻想を生み、ゆえに乱用される。とりわけ国民所得が扱うのは、複数の社会的集団の対立の原因になっている事柄であり、その対立では、問題を過剰に単純化したほうが、主張を訴えやすくなるからだ」
「さらなる成長を求める目標は、何のため、何の成長かをはっきりさせるべき」
サイモン・クズネッツは、GDPの算出に、軍事・広告・金融部門の支出を含めることを戒めました。
第6章につづきます。
<関連の投稿>
第1章 過去最大の繁栄の中、最大の不幸に苦しむのはなぜか?
第2章 福祉はいらない、直接お金を与えればいい
第3章 貧困は個人のIQを13ポイントも低下させる
第4章 ニクソンの大いなる撤退
第5章 GDPの大いなる詐術
第6章 ケインズが予測した週15時間労働の時代
第7章 優秀な人間が、銀行家ではなく研究者を選べば
第8章 AIとの競争には勝てない
第9章 国境を開くことで富は増大する
第10章 真実を見抜く1人の声が、集団の幻想を覚ます
終章 「負け犬の社会主義者」が忘れていること
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