【早見和真】『笑うマトリョーシカ』

笑うマトリョーシカ』読了。

ドラマの第1話をみて、興味が湧いたので手に取ってみました。

一気読みできる作品だと思います。





マニュピレーター

この作品のテーマとなっているのが、政治家である清家一郎を誰が操っているのか?

心理学でいうところの「マニュピレーター」とは、他人を意のままに操り、支配したいという欲求を持つ、攻撃的な人格を指すようです。

マニュピレーターを定義した心理学者のジョージ・サイモンによると、「人を追い詰め、その心を繰り返し支配する者」であり、潜在的攻撃性パーソナリティ障害のこと。

親切に接してきたかと思えば、理不尽な態度という矛盾した行為が繰り返され、相手を支配していくようです。

しかし『笑うマトリョーシカ』では、空っぽの人形として存在する清家一郎が、マニュピレーターを求めているかのような展開となっています。

空っぽだからこそ、相手の意見や考えをそのまま吸収して、自分の考えであるかのように主張することができる。

言い換えれば、自分の考えや主張を、より魅力的に伝えることができる清家一郎に、周囲の人間が取り込まれてしまうのかもしれません。


相次ぐ事故

そんな清家一郎の周辺では、不審な事故が続きます。

物語は、そんな清家一郎の過去を探り、実体をあぶり出そうとする記者・道上香苗の疑問からはじまります。

小説版では、道上香苗は、物語をすすめる役柄であって、主役ではありませんが、ドラマ版では、清家一郎を追いかける道上香苗が主役となっています。

最初は、清家一郎が初当選した選挙となった、事故死した現役議員の補選。

このときの事故死で、もっとも得をしたのは清家一郎です。

ドラマでは、原作にはない、主人公の新聞記者の父が事故で亡くなり(暗殺され)、ミステリー要素がさらに強められています。

秘書の鈴木俊哉も事故に遭い、これも不審な事故だと考えられます。

原作もドラマも、清家一郎の謎めいた過去を追いかける記者の道上香苗は、周辺の人間関係を探り、謎を紐とこうとしますが、なかなか真相には辿り着けません。

ただ、後半になると、女同士の戦い的な部分もあるので、ドラマ版の解釈もありだな、と感じます。



毒親

この作品では、マニュピレーターは代々続いています。

清家一郎の父・和田島芳孝は、その母の言うがままに育てられ、政治家としても自らの意見を持ちません。

その父をコントロールしようと近づいたのが、清家一郎の母で、出自が訳ありです。

そして、その母が産んだ子どもが清家一郎です。

父をコントロールしたように、自分の子どももコントロールし、自我が芽生えないように育てていきます。

そして、清家一郎は高校で友人を得るのですが、その友人が、のちの秘書であり、後援会長となります。

母親が息子をコントロールしようとする、というのは、他の物語やドラマでも、よくある話です。

そのため、他の作品とは一線を画すための仕掛けがあり、物語は重なり、複雑になっているのかも。



ヒトラーとハヌッセン

物語のなかで、繰り返し登場するのが、アドルフ・ヒトラーを操ったメンタリスト。

その名は、エリック・ヤン・ハヌッセン。

一時はヒトラーを操ったと言われていますが、その後、家族もろとも暗殺されてしまいます。

清家一郎がヒトラーだとしたら、誰がハヌッセンなのか?

そして、清家一郎は、ヒトラーのように、自分にとってのハヌッセンを殺そうとしているのか?

そんな疑問が、最後まで途切れることなく、展開されていきます。

一気読みは確実の作品です。

ドラマ版は、2話まで観ましたが、やや展開が異なりますから、小説とは違う結末となるのかもしれません。


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