【篠田節子】『仮想儀礼』

仮想儀礼』読了。


生方吉子先生のブログを読んで、ドラマ化されることを知り、手に取りました。

ドラマ『仮想儀礼』の青柳翔さんと大東駿介さんの性格・運気・相性は?


篠田節子さんの小説は好きで、一時期出版されるたびに読んでいたのですが、いつごろからか読まなくなってしまっておりました。

仮想儀礼』の初出は2008年で、2009年に第22回柴田錬三郎賞を受賞した作品です。




ビジネスとしての宗教

物語は、勢いで都庁を辞めた元官僚と、女で失敗したゲーム会社の社員が再会するところからはじまります。

元官僚は、ゲーム本を書いて副業としていたのですが、元ゲーム会社の社員のうまい言葉に乗せられて退職。

夢の作家に転身しようと考えていたのでした。

ところが、作家話は頓挫し、そもそも出版計画さえないことを知ります。

5000枚にも及ぶゲームブックの原稿だけが手元に残り、妻には三行半を突きつけられます。

もはや何も捨てるものがなくなった男がふたり再会したとき、ビジネスとしての宗教を思いついてしまいます。

新宗教の下書きはゲームブック。

チベット密教をもとにした新宗教は仏教的な色合いをもちながらも、ごくごく一般的な、生活していれば誰もが学ぶようなことを並べたものでした。

簡単に教義をまとめたホームページを開設すると、翌日から来訪があり、質問に回答していくうちに、その数が増えていきます。

しかし、ビジネスとしての宗教を立ち上げた以上、金銭的にも成功しなければなりません。

教祖=社長は、お金を落としてくれる信者獲得へと目標を定めます。



企業との癒着

拡大していく過程で、一代で成功を納めたワンマン社長と出会います。

そして、その社長の一存で、教祖(社長)の思い描く莫大な収入を得ることにも成功していきます。

宗教事業は成功し、教祖は毎日大金を手にすることに成功するのです。

しかし、その一方で、宗教にしかすがれない人々も集まりはじめ、一部はオカルト的な色を帯びていきます。

集金装置としての宗教の成功を、テンポよく展開しているのが上巻です。

一気に読んでしまいました。



カルト化する信者

穏やかで誰もが理解できる教義を展開していたにもかかわらず、一部の信者はカルト化していきます。

学校でいじめにあい、毎日のように恐喝されていた少年は、修行を通じて、いじめている者たちを呪殺することを企んでいました。

しかし、少年は別の宗教に踏み入れ、最後は高野山の山中で凍死してしまいます。

この死が、教祖(社長)の胸に刻み込まれ、信者が逸脱しないよう、そして最後まで信者に寄り添う決意をします。

ところが、坂を転げ落ちた宗教に待っていたのは、カルト化した信者だけでした。

家族を頼れない、むしろ家族が自分を傷つけると考えている女たちだけが残り、まともな神経の持ち主は次々と去っていきます。

金銭的にも困窮する教祖は、ついに女たちが共同生活するホームにたどり着くのです。

彼女たちは、女で失敗した元ゲーム会社社員が寄り添い、引き上げてきた面々です。

教祖は、自分自身が創作した宗教は、単なるゲームであり、神も仏も存在しないと理性では切り捨てます。

しかし、カルト化した女たちに見張られ、逃避行の旅に連れ出されてしまうのです。



教祖とは?

カルト化した女たちはついに殺人まで引き起こしてしまいます。

トランス状態にあったとはいえ、全責任は自分にあると考え、教祖はすべての罪を被ります。

逃避行の過程では、一緒に宗教を立ち上げた元ゲーム会社社員は亡くなってしまいます。

世の中が作り出したカルト宗教集団というレッテルは、ビジネスとして宗教をはじめた教祖に、思い十字架を背負わせたのでした。

読んでいて、教祖となった人の中には、まさに同じような轍を踏んでしまった人がいるのかも?と感じてしまう終わり方でした。

ドラマでは、『仮想儀礼』がどのようにつくられるのか、とても興味がわきました。

観るのが楽しみです。


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