【劉慈欣】「三体」

話題のSF「三体」読了。

中国では、SF小説に対して投資が盛んにおこなわれているようで、その嚆矢となったのが、この「三体」と、作者の劉慈欣のようです。



シリーズ1作目の「三体」について、まとめておきます。





チャイナ・ノベルのお約束「文化大革命」

かつて中国人と仕事をしていたので、中国人の理解のために小説を読んだことがあります。

日本語訳されている中国の小説はあまりありませんが、必ずといっていいほど登場するのが、文化大革命です。

文化大革命は、毛沢東の晩年におこった文化運動とされていますが、一般的な中国人によると、エリート層や富裕層が僻地に送り込まれ、農夫などが都市部に召喚された、上下逆転、ガラガラポンを共産主義の名のもとに行ったものです。

かなり乱暴な構造改革ですが、文化大革命を描くことによって、登場人物の人間性や、隠された目的などを描き出したり、または伏線とすることができるためか、文化大革命を書くことは、チャイナ・ノベルにはよくある手法といえます。

日本なら、東日本大震災とか阪神大震災とか、自然災害がミステリーなどに使われますが、そんな感じです。

三体」でも、冒頭から文化大革命が描き出されます。

作者の劉慈欣は1963年生まれなので、人生の初期に、文化大革命という大波に影響された世代です。

チャイナ・ノベルと文化大革命は、深い関係であり続けるのかもしれませんね。




ゲーム「三体」

三体」は、冒頭からかなりのボリュームが、前フリです。

というか、「三体」そのものが、シリーズ3作のなかの前フリとなっています。

そして、「三体」の意味を理解させてくれるのが、ゲーム「三体」なのです。

ゲームは、三体問題(three-body problem)という、解のない古典力学の問題そのものです。

3つの太陽がある惑星の暦問題として、この三体問題が登場します。

文明が起こっては滅亡を繰り返す惑星が設定であり、このゲームにログインするたびに、文明が変わります。

最初は紂王、伏義、墨子などが登場して、どんどん人が死んでいくので、「まさか封神演義?」と思ったくらいです。

ところが、途中からガリレオやニュートンが登場したりして、三体問題であることが、徐々にわかってきます。

おもしろいのは、ジョン・フォン・ノイマンが登場して、始皇帝の軍隊が手旗信号で二進法のコンピュータを実現するところでしょうか。

わたしの場合、まだ読み終わっていませんが、先行して「とてつもない数学」を読んでいたので、ゲーム「三体」のゲームストーリーを理解することができました。




地球外知的生命体とコンタクト

三体」を7割以上も読みすすめて、やっとわかるのが、地球外知的生命体とのコンタクトができちゃった!ということです。

映画『未知との遭遇』を思い出してください。



三体」は、1970年代に世界的に流行したUFOブーム、宇宙人をふまえていて、物語のなかでは、中国の僻地で、極秘プロジェクトが行われてます。

それが、地球外知的生命体とのコンタクトです。

そこに、文化大革命がなければ、そんなところに送り込まれるはずがなかった天体物理学の専門家が登場し、地球外知的生命体とのコンタクトに成功してしまいます。

その地球外知的生命体が、三体人です。

具体的には、三重連星をもつケンタウルス座アルファ星(アルファ・ケンタウリ)です。

ここで、三体問題がテーマとなっているゲーム「三体」が、そのままケンタウルス座アルファ星(アルファ・ケンタウリ)の文明の歴史であることがわかります。

地球との距離は、4.3光年。

地球に最も近い恒星系に、知的生命体が存在しているのです。

「三重連星=三体問題」なので、三体とは、解のない暦をもつ惑星となります。

このことは、安定した天候が続く恒紀、太陽が出ない乱紀となって表現されています。

三体人は、三重連星のために、不安定な天候に文明が振り回される三体を捨て、地球に侵略しようとします。

ここまでが、「三体」です。

まだ、物語は始まったばかり。

続きを読まねば!





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