『流浪の月』読了。
小説を読んで、久しぶりに涙しました。
松坂桃李さんと広瀬すずさん、そして横浜流星さんが共演する映画も、2022年には公開予定です。
絶対に観ないと!
『流浪の月』には、「事実と真実はちがう」という言葉が、何度も登場します。
そして、一緒にいるだけで良い関係、という形も登場してきます。
とても繊細な描写で、善意の第三者の言葉によって傷ついていく、文と更紗の様子が、手にとるように伝わってきました。
少女誘拐・監禁の犯人と被害者
主人公の更紗と文は、9歳の少女と19歳の大学生のときに出会い、行き場のない更紗に声をかけた文に、無断で更紗がついていってしまいます。
この行動が、のちに小児性愛者による誘拐・監禁という事件へと発展してしまいます。
しかし、更紗は安心して生活できる場所にいただけであり、文はそんな彼女の面倒をみていただけ、というがふたりの真実です。
15年後、更紗と文は再会するのですが、その再会がきっかけとなり、ふたたび事件が蒸し返され、ふたりの人生は大きく動いていくのです。
事情を知らない外部の人間は、勝手な事を言いふらすうえに、世間の常識という偏見もまた、ふたりを傷つけます。
善意の人、正論を吐く人というのは、ときに煙たがられますが、まさにそんな人達に囲まれて、更紗は自由を奪われていくのですが、文と出会ったことで、本来の自分を取り戻していきます。
性腺機能低下症(類宦官症)
この物語のテーマのひとつと考えられるのが、セックスできない人、のようです。
更紗は、成り行きでセックスはするもの、実は我慢を強いられる時間であり、できれば拒否したいと考えています。
いっぽう、少女にしか性愛を感じない、ということにしてしまった文は、男性特有の二次性徴が発来しない病気でした。
かつては類宦官症と呼ばれた病気のようですが、男性ホルモンが分泌しないために、声変わりがなく、ヒゲが生えない、という病気に悩まされ、誰にも相談できずにいた文は、警察に逮捕されることで、すべてを明らかにしてしまおうと考えてしまうのです。
この病気の特徴として、手足が長いという身体的な特徴もあり、文のほっそりとした身体つきについての描写は、この病気であることを、それとなく示唆しています。
でも、この描写が、まるで松坂桃李さんのイメージなのです。
整った顔立ちで、立ち姿は白いカラーの花のようだ、と更紗は説明しています。
物語のクライマックスで、ようやく文が、更紗に病気のことを告げる場面がありますが、思春期にこのような病気なのではないか、と思っただけで、絶望を感じるというのも、よくわかります。
思い出すと、自分の身体に注意がむき、そして他人と比較することに、最も興味があった頃かもしれません。
家族だけれど家族ではない
更紗と文の出会いは、最初から運命的なものだったのです。
だからこそ、文は、ネットで見つけた情報から、更紗が住んでいるかもしれない土地に移り住み、カフェを構え、更紗と再会できるかもしれないと、期待と不安の交錯した気持ちで待つことを決めます。
一方の更紗も、ときおり過去の事件の情報をネットでみては、文と暮らした二ヶ月間を幸せな日々として、思い出します。
お互いに男女の関係になる気はないけれど、その人の近くにいると安心する、という相手が、更紗にとっては文、文にとっては更紗だった、という結末です。
実際のところ、若い頃は恋愛に発展することは当然だったような気がしますが、いまでは恋愛は面倒だけど、いっしょにいて安心できる人、信頼できる人とは、生活を共にしたい、と考えることがあります。
家族ではないけれど、家族のような関係なのか、それとも行き場を失ってしまった者同士が群れをつくっているのかもしれません。
人間はひとりでは生きられない。
まさにそんな言葉がぴったりなエンディングでした。
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