「バビロンの秘文字」上下巻を読了。
たぶん堂場瞬一作品を初めて読んだと思いますが、すっごくおもしろかったです。
映像化は、お金がかかりすぎるし、実現も困難だと思いますが、映画になったら絶対に見に行きます!
というぐらいに、ドキドキでスリリングな内容でした。
カメラマンといっても、紛争地帯などを撮影するアウトドアな男。
恋人は完全にインドアな言語学者で、古代文明に興味を持っている女。
最初から、なんとなくうまく行きそうもない組合せですが、彼女が勤務する研究所が爆破される現場を目撃し、さらに恋人が何かを持ち出して逃亡した後ろ姿を目撃してしまうのです。
そこから、恋人を探す男の物語が始まるのでした。
片時もじっとしていない男、という感じです。
本書のなかでも「回遊魚」という言葉で表現されていましたが、たとえ小さな手がかりでも、そこからなにかのヒントを得ようと追い掛けます。
そして、男が動き回るうちに、周辺が次第にきな臭くなってきます。
地元の警察官との丁々発止の攻防にはじまり、CIAが登場してからは、一気に国際的な情報戦の渦中に放り込まれてしまいます。
そして、恋人とばったりと出会うのですが、なぜか彼女はカメラマンから逃亡するのです。
自分を襲おうとする集団から逃げるためとはいえ、ストックホルム市内のカーチェイスは圧巻です。
小説の良いところは、主人公の必死の形相と息遣いを感じつつ、市内観光もできるという点です。
まるで自分も、ストックホルムの街なかを走っているかのような錯覚に陥ります。
そして、車やバイクの性能をやたらと細かく書いているので、そちら方面に興味がある方にも面白く読めるのではないでしょうか。
行ったことはありませんが、川や海がすぐ近くにある高速道路に掛かる橋、というイメージは、すっかり刷り込まれてしまいました。
ここで、恋人は車ごと川に転落し、行方不明に。
しかし、カメラマンの男はあきらめずに、さらに行方をさがそうとするのです。
ここで、CIAとの協力関係というか、お互いに利用し合う関係がつくられていきます。
そして、謎解きは下巻に集中しています。
一連の騒動の中心には、シュメル人の末裔とするラガーンという民族が。
ラガーンはユダヤ人みたいなもので、国を持たず、世界中の金融界に多い、という設定です。
そして、4500年前に楔形文字で書かれたバビロン文書の解読が、事件の雌雄を決するということが、読者にもわかってきます。
しかし、ラガーン民族は一枚岩ではなく、過激派と穏健派に分かれており、独立の日が迫って焦る過激派が武力行使していたのでした。
そして、この独立には、ロシアの後押し、CIAエージェントの暗躍などがあり、誰が誰のために動いているのかが読めない、というおまけつきです。
なぜなら、その場所はイラク国内だから。
中東は、紛争地帯であぶない、という認識が一般的になってきていますが、なかでもイラクは特別な地域のようです。
まだまだ安定とは言い難いイラク国内に、ラガーンの国を作るというのですから、アメリカもロシアもイラクも、落ち着いてはいられません。
アメリカが下した決断は、ラガーン建国の根拠となる可能性の高い遺跡を破壊する、というものでした。
無人機による爆撃を行おうというのですが、そこに居合わせたカメラマンは、爆撃を止めさせるために、写真を使います。
最初はCIAのエージェントを脅すために、次はアメリカの犯罪を目撃し、撮影するカメラマンとして。
ネット社会は評判社会ですから、爆撃の現場に民間人が多数いた!などという事実は、世界中からバッシングされるネタにしかなりません。
アメリカは空爆を中止し、カメラマンはラガーン民族と、その歴史を守ったのでした。
作者は、登場人物一人一人を主人公にしたる短編を書けそうです。
もしかすると、そのうち書くつもりなのかもしれませんけど。
物語の現場も、日本人には馴染みの薄い中東や北ヨーロッパなので、新鮮なままに読み進めることができます。
手にとったら最後、一気に読み進めたくなります。
<関連の投稿>
【一田 和樹】「サイバー戦争の犬たち」
【一田 和樹】「原発サイバートラップ リアンクール・ランデブー」
たぶん堂場瞬一作品を初めて読んだと思いますが、すっごくおもしろかったです。
映像化は、お金がかかりすぎるし、実現も困難だと思いますが、映画になったら絶対に見に行きます!
というぐらいに、ドキドキでスリリングな内容でした。
日本人カメラマンが楔形文字の謎を解く
「バビロンの秘文字」は、日本人カメラマンが、恋人の楔形文字研究者に呼ばれてスウェーデンのストックホルムに向かうところからはじまります。カメラマンといっても、紛争地帯などを撮影するアウトドアな男。
恋人は完全にインドアな言語学者で、古代文明に興味を持っている女。
最初から、なんとなくうまく行きそうもない組合せですが、彼女が勤務する研究所が爆破される現場を目撃し、さらに恋人が何かを持ち出して逃亡した後ろ姿を目撃してしまうのです。
そこから、恋人を探す男の物語が始まるのでした。
恋人探しのはずが、どんどん危険に巻き込まれていくカメラマン
恋人を探すために、カメラマンは手がかりを求めて動き回ります。片時もじっとしていない男、という感じです。
本書のなかでも「回遊魚」という言葉で表現されていましたが、たとえ小さな手がかりでも、そこからなにかのヒントを得ようと追い掛けます。
そして、男が動き回るうちに、周辺が次第にきな臭くなってきます。
地元の警察官との丁々発止の攻防にはじまり、CIAが登場してからは、一気に国際的な情報戦の渦中に放り込まれてしまいます。
そして、恋人とばったりと出会うのですが、なぜか彼女はカメラマンから逃亡するのです。
北ヨーロッパで圧巻のカーチェイス
主人公のカメラマンは、野生のカンで動くタイプのようで、とにかく逃げ足が早いし、危険を察知する能力も高い。自分を襲おうとする集団から逃げるためとはいえ、ストックホルム市内のカーチェイスは圧巻です。
小説の良いところは、主人公の必死の形相と息遣いを感じつつ、市内観光もできるという点です。
まるで自分も、ストックホルムの街なかを走っているかのような錯覚に陥ります。
そして、車やバイクの性能をやたらと細かく書いているので、そちら方面に興味がある方にも面白く読めるのではないでしょうか。
国境に近い橋の上で繰り広げられるテロ
上巻のクライマックスは、スウェーデンとデンマークの国境付近での追跡劇と、戦闘機なみの装備をしたヘリが登場して、目的のモノと言語学者の彼女を拉致しようとするシーンです。行ったことはありませんが、川や海がすぐ近くにある高速道路に掛かる橋、というイメージは、すっかり刷り込まれてしまいました。
ここで、恋人は車ごと川に転落し、行方不明に。
しかし、カメラマンの男はあきらめずに、さらに行方をさがそうとするのです。
ここで、CIAとの協力関係というか、お互いに利用し合う関係がつくられていきます。
CIA、ロシア、イラク、ラガーン
「バビロンの秘文字」というタイトルから、歴史ミステリーかと思って読んでいたのですが、上巻は全体像を描き出しつつ、カーチェイスでスリリングに仕上げています。そして、謎解きは下巻に集中しています。
一連の騒動の中心には、シュメル人の末裔とするラガーンという民族が。
ラガーンはユダヤ人みたいなもので、国を持たず、世界中の金融界に多い、という設定です。
そして、4500年前に楔形文字で書かれたバビロン文書の解読が、事件の雌雄を決するということが、読者にもわかってきます。
しかし、ラガーン民族は一枚岩ではなく、過激派と穏健派に分かれており、独立の日が迫って焦る過激派が武力行使していたのでした。
そして、この独立には、ロシアの後押し、CIAエージェントの暗躍などがあり、誰が誰のために動いているのかが読めない、というおまけつきです。
息をするように写真を撮るカメラマンの逆転劇
ラガーンの建国宣言で一気に緊張感が高まります。なぜなら、その場所はイラク国内だから。
中東は、紛争地帯であぶない、という認識が一般的になってきていますが、なかでもイラクは特別な地域のようです。
まだまだ安定とは言い難いイラク国内に、ラガーンの国を作るというのですから、アメリカもロシアもイラクも、落ち着いてはいられません。
アメリカが下した決断は、ラガーン建国の根拠となる可能性の高い遺跡を破壊する、というものでした。
無人機による爆撃を行おうというのですが、そこに居合わせたカメラマンは、爆撃を止めさせるために、写真を使います。
最初はCIAのエージェントを脅すために、次はアメリカの犯罪を目撃し、撮影するカメラマンとして。
ネット社会は評判社会ですから、爆撃の現場に民間人が多数いた!などという事実は、世界中からバッシングされるネタにしかなりません。
アメリカは空爆を中止し、カメラマンはラガーン民族と、その歴史を守ったのでした。
登場人物が曲者ぞろい
主人公のカメラマンは、職業からしてアウトサイダーなのですが、CIAのエージェントや公安警察官、暗号を研究する天才少女などなど、どの登場人物も曲者ぞろいで、だれもが魅力的です。作者は、登場人物一人一人を主人公にしたる短編を書けそうです。
もしかすると、そのうち書くつもりなのかもしれませんけど。
物語の現場も、日本人には馴染みの薄い中東や北ヨーロッパなので、新鮮なままに読み進めることができます。
手にとったら最後、一気に読み進めたくなります。
<関連の投稿>
【一田 和樹】「サイバー戦争の犬たち」
【一田 和樹】「原発サイバートラップ リアンクール・ランデブー」
コメント
コメントを投稿