【一田和樹】「義眼堂 あなたの世界の半分をいただきます」

義眼堂 あなたの世界の半分をいただきます」読了。

一田和樹作品は、このブログでも紹介記事が多いほうですが、「こういうマイルドなファンタジーも書くんだ」と感じました。






鬼が主人公のファンタジーホラー

義眼堂を営む千瞳悼水(せんとうたくみ)と、ちょいちょい絡んでくる瀬島茫洋(せじまぼうよう)は、ともに鬼の一族。

これに、空海が中国から持ち帰った地図の付喪神・八百万紅蓮(やおよろずぐれん)の3人(?)が、この物語の主要キャストです。

ファンタジーホラーなんですが、ホラー要素はほとんどありません。

むしろ、これまでの一田和樹作品に、私はホラーを感じるくらいで・・・。

冒頭に書いた、「こういうマイルドなファンタジーも書くんだ」という感想は、一田和樹作品なら、もっとドロドロとした展開があるはず!という期待を打ち砕くものだったからです。


義眼で人生が変わるショートストーリー

義眼堂が与える義眼は、失明したから使用するものではありません。

人間関係を、さまざまな形にして見せてくれるものです。

第一話では、感情が波と色で見える目。

第二話では、関心が鳥の姿で見える目。

第三話は、五年後の姿が鏡で見える目。

第四話は、人と人をつなぐ糸が見える目。

これらの物語に登場する人物は、いわゆるKYとか、天然とか言われてしまう人たちであり、イジメにあいやすい人たちです。

全編が、義眼をつけて人間関係が良くなり、人生が前向きになるというストーリーなのです。

が、しかし、「そんなハッピーエンドあるはずない!一田和樹作品に限って」という固定概念が根深いのか、悲惨な末路を想像してしまうのです。

第一話では、感情が波と色で見える目。

→ 沖縄で殺される(理由不明)

第二話では、関心が鳥の姿で見える目。

→ やっぱり他に女がいた(つきなみな理由ありそう)

第三話は、五年後の姿が鏡で見える目。

→ ジャーナリストになってテロにあって爆死(これはありそう)

第四話は、人と人をつなぐ糸が見える目。

→ 糸を布にするのに疲れてしまう(これもありそう)

というような、不幸になる方向で展開していかないので、肩透かしをくらった感じです。



なぜ世界の半分をもらうのか?

義眼堂を営む千瞳悼水(せんとうたくみ)は、鬼ですが、一般社会に生息しています。

しかし、はるか昔に別れてしまった一族のもとに戻りたいと考え、義眼を無償提供するかわりに、手に入れた人間の目を監視カメラ代わりにつかって、自分以外の鬼の姿を探しているのです。

その光景は、創造するとシュールですが、5Gになって最も進化するもののひとつが監視カメラなので、理解しやすい光景ともいえます。

そして、ファンタジーホラーなのに、付喪神がノートパソコンに顧客情報を入力したり、Googleマップで位置情報を確認したりと、現代のITを使い倒します。

そういう意味では、「義眼堂 あなたの世界の半分をいただきます」は、まぎれもない一田和樹作品なのでした。

シリーズ化してただいて、もっと奥深い構造的な物語に進化して欲しいものです。



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