『なぜ、愛は毒に変わってしまうのか』読了。
中野信子さんの『毒親』に加筆修正されたのが、本書です。
毒親について、毒親に育てられた子どもについて、様々な角度から書かれています。
ですが、毒親に育てられても、自分が毒親にならない可能性もあることを、教えてもくれます。
子育てに迷っている人にも有益な一冊だと思います。
子どもの脳にどんな変化が見られるのか?
毒親からの被害、虐待をうけた子どもの脳には、顕著な変化がみられるようです。
『なぜ、愛は毒に変わってしまうのか』に書かれている研究結果について、以下にまとめておきます。
しつけのための体罰を受けた
2009年にアメリカで実施された研究で、18歳~25歳の若者1455人を対象としています。
DVなど、ひどい暴力ではなく、しつけとして体罰を受けた若者の脳は、前頭葉の中前頭回(ちゅうぜんとうかい)、前帯状皮質(ぜんたいじょうひしつ)と呼ばれる部分の体積が14%~19%も少ないのだそうです。
前帯状皮質は、血圧や心拍数の調節のような自律的機能のほかに、報酬予測、意思決定、共感や情動といった認知機能に関わっていると考えられている部分です。
月2回以上の体罰を受けた
1998年~2005年にかけてアメリカで行われた、2461人を対象とした調査結果です。
子どもが3歳のときに、月2回以上の体罰を受けていると、子どもが5歳になったときに、攻撃性が1.49倍高まるそうです。
子どもの暴力性は、体罰の経験から発生する、ということかもしれません。
これに関連して、2006年のアメリカの研究では、しつけとして体罰を受けている子どもは、実際の場面でも、暴力行為を行いやすいようです。
この研究では、10歳~15歳の子どもとその親134組に調査を行いました。
その結果、親から体罰を受けていた子どもは、コミュニケーションに暴力を容認する傾向が高いことが判明しました。
こわいですね。
こういう経験をした子どもたちは、人間関係において、暴力にものを言わせるような大人に成長しやすい、ということでしょうか。
子ども時代にDVを見た
2012年に発表された論文では、子ども時代にDVを見た人の脳の視覚野が、平均6%減少しているそうです。
つまり、見ることを拒否している結果、視覚野が小さくなったと考えられます。
親のケンカは6ヶ月未満の赤ちゃんでもわかる
赤ちゃんの24時間尿検査を実施すると、親のケンカが推定できるようです。
赤ちゃんでも異変に気づく。
そして、それが体調へ影響を与えるということです。
また、感情的に不安定な家庭で育つと、次のような傾向が高まるようです。
- 新たな刺激に対して積極的に反応しなくなる
- 自分自身の気持ちを落ち着けられなくなる
- ストレスを感じたあとに立ち直れなくなる
親のケンカが絶えなかったり、子どもに感情をぶつけてきたりという家庭で育つと、感情をコントロールすることが苦手になるようです。
たまに、「こんな子どもにわからない」という発言をする人に出会いますが、人間は感情の生き物なので、感情を記憶するのではないでしょうか
何が起こっているかは理解できなくても、そのとき感じた気持ちは記憶されていく。
そういうことかもしれません。
ストレスホルモンは骨の形成を妨げる
感情的に安定した家庭で育つ子どもと、感情的に不安定な家庭で育つ子どもを比較したとき、4歳でストレスホルモンの量が2倍となるようです。
このストレスホルモンは、骨の形成を妨げるだけでなく、不安障害やうつ病になるリスクが高くなります。
また、ストレスホルモンは免疫系の正常な働きを妨げ、感染症にかかりやすくなります。
夫婦が仲直りをするシーンを見せない
子どものまえでケンカするシーンを見せてしまうより、ケンカのあとに仲直りするシーンを見せないほうが、子どもに大きなダメージを残すようです。
仲直りするシーンをみせると、親同士の傷ついた関係も修復される、という安心感を子どもに与えられるからです。
人間関係を築くうえで、関係修復の可能性を知っている人と、そうではない人とでは、生き方に大きな違いが生まれるように思います。
愛情遮断症候群
特定の養育者ではなく、不特定の複数の大人に育てられると、子どもは、自分が愛情を示す対象がわからなくなり、感情や情緒の表現をしなくなります。
こうして育った子どもは、大人になっても親密な関係を避け、親密になろうとする相手を回避するようになるようです。
親からの健全な愛情を受けて育った子どもは、自分の子どもに対して愛情を注ぐことができますが、愛情遮断症候群の子どもは、自分の子どもに対して適切な愛情表現ができないのではないか、と考えられるようです。
社会経済的地位の再生産とは?
東大進学者の親はお金持ち。
こんなことが以前から指摘されてきました。
お金持ちだから、学習環境を整えることができる、と考えられていますが、『なぜ、愛は毒に変わってしまうのか』のなかに、こんなことが書かれていました。
実は、社会経済的地位の再生産には、「親の語彙力」が関わっているというのです。
ひとつの物事に対して、どれだけ豊かな表現ができるか。
それが語彙力です。
単純な一言で切り捨てるのではなく、多方面から光を当てて言葉をつくす。
現代に生きるわたしたちにとって、とても重要なことのひとつではないでしょうか。
それが、自分の子どもや家庭のなかでも、重要だということです。
言葉を選んで、相手の気持ちに寄り添った表現をつかってみる。
それが、肯定的で、相手を褒めるときにも、さまざまな表現をとりいれること。
そんな語彙力が、子育てにも大切だということではないでしょうか。
そのためには、心のゆとり、心理的な余裕が必要となります。
忙しい母や父が、心理的に余裕がないと、子どもに対して、短い感情的な言葉で対応してしまうかもしれません。
しかし、それは、避けたほうが良さそうです。
心理的余裕がもたらすもの
人間の脳は、30歳くらいまでにおおよそ完成しますが、過度のストレスなどで物理的に傷つくことがわかっています。
それが、幼児に対してのストレスであったら、どれだけの影響があるでしょう。
これまで見てきたように、脳の成長期に受けた傷は、深く、そしてその影響が大きいことがわかります。
脳の傷は、学習意欲の低下、うつ病などのかたちになってあらわれます。
脳内で傷をうける場所のひとつに線条体(せんじょうたい)があります。
この部分の動きが弱まると、前向きな意欲が失われるようです。
前向きに行動することで得られる快感が得られなくなるため、やる気を失ってしまいます。
また、人を信じられなくなったり、疑い深くなったりします。
さらに、線条体の動きが鈍いと、少しで快感がえられないため、より強い快感を求めるようになり、強い刺激を求めて依存症になりやすいのです。
これらの脳の傷は、修復可能であるようです。
脳が成長・成熟していくことで、若い頃には解決・対応できなかった問題にも、処理能力が高まっていくからです。
心理的な余裕をもつことが、自分自身の脳の傷を修復するためにも必要だということです。
不安定な環境から、安定的な環境にすること。
それが、子育てに重要なことになります。
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