『アンダークラス』読了。
『ガラパゴス』につづいて、相場英雄さんの田川刑事シリーズです。
イッキ読みしましたが、テンポがゆったりとしているというか、書きたいことがたくさんあるから、スピードを求めていないような感じです。
事件の全体像がわかってから、ラストシーンまでが長いと感じました。
技能実習制度とデフレ
『アンダークラス』で描かれているのは、外国人技能実習制度。
非正規雇用の外国人労働者が、自殺幇助で逮捕されるところからはじまります。
自殺したのは、介護施設で余生を送っていた末期がん患者の女性です。
しかし、メモ魔の田川刑事が写真をみて、自殺幇助ではなく殺人事件であると喝破します。
そこから、期限付きの事件解明がすすむのですが、今回の相棒は警察庁のキャリア官僚。
省庁を超えた連携ができるという設定です。
日本だけが、先進国のなかで貧しくなっていることを「デフレ」という言葉でザクッとまとめてしまっていますが、この点については『ガラパゴス』で描かれているので、2作続けて読んだほうが理解が深まるのではないでしょうか。
GAFAによる超国家的支配
『アンダークラス』の背景を彩るのは、国家をまたいで収益をあげ、世界を支配するGAFAです。
そのなかでも、ネット通販のAmazonをモデルとした「サバンナ」が登場します。
数年前、実際にAmazonが公取委と揉めた事柄が取り上げられ、それが事件解決の決定だともなっているという筋書きです。
そして、この「サバンナ」が、顧客を段階的に分類していおり、最下層の顧客をアンダークラスと呼んでいるという設定です。
そして、殺人犯として登場する「サバンナ」の日本人幹部は、スクールカーストが厳然と存在する大学出身という設定なのです。
この大学とは、様々な作品で取り上げられる慶応大学であることは、読んですぐにわかりました。
⇒ 【Netflix】【Amazon Prime】『あの子は貴族』
慶応出身と聞けば、一般的には有名私大出身のエリートです。
しかし、内部生とは異なり、大学から慶応というのは、スクールカーストの底辺であり、いわばアンダークラス。
このアンダークラスから這い上がり、世界を席巻する企業の日本法人で働くようになった犯人は、アンダークラスに落ちたくないという一心から殺人を犯してしまうのです。
そこには、悲しい過去もあるにはあるのですが、自らまいたタネであり、自業自得の結果でもあるので、まったく同情の余地がありません。
日本人が出稼ぎとなる日
本書のなかで、殺人容疑を受けたベトナム人女性が、「日本はすでに貧しい、いずれ日本人が出稼ぎするようになる」という内容の発言をします。
これは、昨年、日本円がいっきに下落したときに、多くの人が感じたことではないでしょうか。
昨年12月に、海外就職のGJJに取材したときに、同じようなことを質問してみたのですが、GJJでは「可能性はあるが、フィリピンのようなことにはならない」と断言していました。
日本の製造業がある限り、そうはならないだろう、というのが、その理由でした。
とはいえ、最近は日本の雇用、閉塞した会社組織への反発などから、海外で就職しようとする人々が増えているのは事実のようです。
長らく、日本の若者は内向き、国内志向が強いと言われてきたのですが、留学して海外でキャリアを積もうという若者が増えているようなのです。
本書のなかでも、殺人の動機として、娘を海外留学させて、日本以外の国で就職させることが目標であることが語られます。
海外留学はお金がかかるので、仕事を失うわけにはいかない、というのが強い動機として働くのです。
山側と海側
本書の舞台のひとつとして神戸が描かれます。
神戸で生活したり、仕事をしたりするとわかるのですが、山側=お金持ち、海側=庶民という構図が浮かび上がります。
象徴的なのが鉄道で、海側から山側に向かって、阪神、JR、阪急と並んで走ります。
かつて、神戸エリアに大規模マンションを建設する計画があり、その下調べとして、住民のグループインタビューを行ったことがあります。
そのときに、基礎知識として授けられたのが、山側と海側という構図と、阪神、JR、阪急という3つの鉄道路線の違いでした。
ある意味、日本の縮図が神戸には厳然として存在するということなのかもしれません。
ミステリーエンターテインメントというよりも、日本の構図・縮図を描き出すことに力点が置かれた作品だと感じました。
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