『ガラパゴス』読了。
文庫上下巻で、ボリュームがありますが、イッキ読みしてしまいました。
情報の豊かさと確かさでは、いわゆる経済小説のジャンルに入るかと思いますが、極上のミステリーでもあります。
NHKでドラマ化され、織田裕二さんが主演するので手にしたのですが、このような作品に出会えてよかったと思います。
派遣社員の実態を解き明かす
『ガラパゴス』は、2016年1月に刊行された作品なので、7年前の作品となりますが、非正規社員の問題が作品の核となっており、勉強になりました。
物語は、「自殺」と判断された身元不明遺体が、殺害された遺体であることが判明したところからはじまります。
2年間も放置された事件を紐解いていくのが、織田裕二さん演じる刑事・田川。
とにかくメモをとりまくり、真実にたどり着くまで諦めない、切れ者という設定です。
その田川が、丹念に被害者について調査を進めていくうちに、派遣として生きてきた被害者のこと、そして非正規社員の置かれた社会的な環境、構造的な問題などを知るようになります。
読者は、田川と同時並行的に、非正規雇用の実態を学ぶことができるような作品となっています。
硬直化した日本の雇用制度
本書のなかでも何度も指摘されていますが、日本の雇用制度は、新卒採用に重きをおいているために、新卒のときに就活に失敗すると、その後の人生に大きな影を落とします。
大学で教えていたときも、就職氷河期と呼ばれる数年間は、就活は悲惨な状況にありました。
当時の最大の受け皿となっていたのが、介護職と飲食店でした。
私の知る限り、介護職に就いたものの、長続きしている卒業生はほとんどいません。
また、飲食店も同様で、店長候補で就職したものの、劣悪な職場環境に嫌気がさして転職しています。
『ガラパゴス』のなかでは、被害者が、新卒採用時に友人に枠を譲ってしまったことで、非正規・派遣労働者となってしまったという事実が明らかになっていきます。
優秀な成績であったものの、周囲の人々の優しさに支えられて生きているという自覚が強かったことが、自分自身の道を誤らせるとは考えても見なかったことでしょう。
政府主導の国策が失敗するワケ
インターネットが一般にひろがった1995年ごろから、国策と呼ばれる施策がことごとく失敗という評価を受けるようになります。
『ガラパゴス』のなかでも、日本の液晶パネルが、国際的な価格競争についていけなくなった事例や、白物家電の代表でもあるテレビなど、日本製品が圧倒的に負けている状況について、具体的に説明がなされます。
なぜ、日本製品が国際競争力を失ってしまうのか?
その答えとして、 『ガラパゴス』では、老人に飽食をすすめている、という説明を行っています。
若いうちは飽食をしても、血となり肉となりますが、老人はメタボ一直線となり、明らかに不健康になります。
日本の国策が、企業をゾンビ状態にして生き残らせるような施策であるため、施策が終わるとともに急速に衰えるというのです。
国民をみた施策ではなく、企業を生き延びさせるための「詐欺」。
それが、日本の国策だと、作品のなかで断じています。
シュンペーターに言葉の中に、「官僚制とは、規制の生産のためのエンジンである」というものがあります。
規制緩和という言葉の裏には、新たな規制がひそんでいるのかもしれません。
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