『烏の緑羽』読了。
八咫烏シリーズ第2部の第3作となります。
第2部のはじまりが、人間界に送られた八咫烏の物語だったので、八咫烏と人間界の関わりについて描かれるのかと思っていたら、第2作では真の金烏の奈月彦が殺害されてしまいます。
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そして、『烏の緑羽』は、奈月彦でも雪哉でもなく、長束の物語です。
長束は、奈月彦の腹違いの兄であり、理解者でもあります。
そんな長束の配下の者たちの物語なのです。
路近と翠寛
長束の側近として、長く付き従う路近に対して、絶対的な信頼を置けない長束。
真の金烏である弟・奈月彦に「忠誠」についてたずねるところから、物語ははじまります。
誠実こそ大事と考える長束に対し、奈月彦は危うさを感じ、ある人物を迎えるようにと諭します。
そして、路近と因縁深い、翠寛と出会います。
路近という人物が、どのように育ってきたのか、背景から語られます。
同様に、谷間で生まれ育った翠寛の、奇妙な運とめぐり合わせの人生も語られます。
大貴族の長子と、親もなく育った最底辺の孤児。
この2人を見比べながら、人間の思考がどのように形作られていくのか、ということを描いているようです。
勁草院
勁草院(けいそういん)は、金烏宗家を守る山内衆を教育する場所です。
第一部では、雪哉を中心に、勁草院でどのような教育が行われているのか、学園ドラマっぽく描かれていましたが、今回は、路近と翠寛がどのようにして出会い、そこで何があったのかが、描かれています。
学校でのいじめとは比較できませんが、表面的にはそのように見えるふたりの関係。
これが、清賢という院士(先生)の登場により、関係に変化があらわれます。
清賢は、路近が勁草院入りするきっかけを作った人物であり、路近と言葉を交わして真意をつかんでいくのです。
父から見放され、何度も殺されかけている路近の真意とは、「人はどうなると相手を殺したいと思うか」を知ることでした。
その実験として、翠寛を痛めつけていたのです。
全体の9割を占める路近と翠寛の物語
『烏の緑羽』の9割が、路近と翠寛、彼らにかかわる長束の物語です。
そして、最後の最後に、奈月彦暗殺とクーデターが起こったことが知らされ、それに長束がどのような判断を下すのか、が描かれます。
このシーンのために、路近と翠寛、ふたりの物語を長々と紡いできたともいえます。
そして、ラストは、翠寛に連れられて出奔した紫苑の宮(奈月彦の娘)と思われる2人が、長束と再開するところで終わります。
前作の『追憶の烏』では、紫苑の君と思われる少女が、官吏登用試験を受験するラストだったので、物語は、時の流れの間を埋めるように進行しています。
次作は、紫苑の宮と翠寛の物語になるのでしょうか?
それとも、全然違う登場人物が現れるのかもしれません。
八咫烏シリーズの第二部は、前作の続きとは簡単にいえません。
それだけに、どんな物語となるのか、期待感が膨らみます。
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