【阿部智里】『追憶の烏』

八咫烏シリーズの 『追憶の烏』読了。



前作となるのかな?

楽園の烏』は、八咫烏が猿を掃討した時代から20年後の物語でした。

八咫烏の世界である「山内」が、いずれ崩壊するという未来が待っているのですが、それに対する策として、人間界と八咫烏の世界が交錯する物語です。


それに対して『追憶の烏』は、一転、猿を掃討したのちに、真の金鳥である奈月彦が金鳥となり、その娘・紫苑の君が8歳という時代設定です。

楽園の烏』よりも前の時代設定です。

そして、今回も一気読みのおもしろさでした。



真の金鳥弑逆される

追憶の烏』では、驚きの展開があります。

なんと、真の金鳥である奈月彦が、弑逆されてしまいます。

真の金鳥は、山内の崩壊を食い止めることができる唯一の存在と考えられています。

しかし、奈月彦には男子がなく、日嗣の御子を女子の内親王・紫苑の君にしようと考え、動いています。

このことがきっかけとなり、奈月彦の政治に反対する勢力が、奈月彦と、その兄で賛同者の長束の勢力を排除するのです。




行き違い、すれ違う心

追憶の烏』のテーマは、気持ちのすれ違い、かもしれません。

今回の主役でもある雪哉は、奈月彦の友として、また警護役であり、政治の片腕としても、奈月彦から絶対に信頼されている、と自信を持っていました。

しかし、奈月彦の遺書には、雪哉ではなく、皇后の浜木綿の意志を尊重する、とあったのです。

奈月彦亡き後、謀略が明らかになるにつれ、奈月彦が山内を守ろうとして行った政治への反発が明らかとなっていきます。

未来を見据えた政治といえば聞こえは良いのですが、実際には、我慢と負担ばかりが増していく政治は、多くの人の支持を失っていました。

本当の意味で革新的で、将来的な政治は、人間社会でも理解されずに終わることが多いものです。

そんな事実が、雪哉にも突きつけられます。




雪哉が黄烏に

気持ちのすれ違いを思い知った雪哉は、果断な政治家へと変貌します。

追憶の烏』の終盤は、奈月彦弑逆事件の10年後、雪哉は、金鳥を補佐する黄烏の地位にあります。

そこへ、奈月彦の忘れ形見である紫苑の君と思われる少女が、官吏登用試験を受験してきます。

それも、落女となり、男として。

雪哉は、紫苑の君と確信したような場面で、『追憶の烏』は終わります。

次作では、いよいよ『楽園の烏』と交錯する物語となりそうです。

八咫烏の未来はいかに!

はやく、次が読みたい!


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