『ある男』読了。
読売文学賞を受賞した作品で、映画化され、公開予定です。
複雑なところもありますが、どんどん読み進められる作品だと思います。
戸籍を取り換えて別人となる人々
『ある男』は、自分の夫が、妻が聞いていた人間とは別人だった、という謎から始まります。
事故死したことで、妻が、疎遠だった実家に連絡をとったことからそのことが発覚するのですが、では自分の夫は誰なのか?
その謎をひも解いていくのが、弁護士の城戸です。
城戸が調べていくと、さまざまな事情で戸籍を取り換え、別人として生きていく人々の群れが浮かび上がってきます。
アイデンティティとは?
『ある男』に描かれているのは、自分という存在やアイデンティティについてではないでしょうか。
弁護士の城戸は、在日三世で、ほぼほぼ日本人として生まれ育ち、高校生の時に帰化しているという設定です。
韓国との関係が悪化するなか、自分の出自について意識せざるを得ないことが度々あり、自分のアイデンティティに思い悩みます。
いっぽう、誰だかわからないままに事故死した男は、死刑囚の子どもだということがわかります。
そして城戸は、この男の調査にのめりこみます。
どんな人生を歩んできたのかも、調べるうちにわかってきて、城戸はますます自分でも理解できないような心境に落ち込んでいきます。
レッテル問題
この作品では、レッテル問題について考察が展開されます。
レッテル問題というのは、ひとことで表現することで、相手を理解したつもりになる、というものです。
たとえば、「在日韓国人」とか「死刑囚の子ども」もレッテルです。
レッテルが問題なのは、そのひとことで分かったつもりになって、ある種の先入観を持ってしまうことではないでしょうか。
この物語のなかでは、城戸の懊悩として、なんどもレッテル問題が描かれます。
どんな人にもいろいろな面があり、一言では表現できないということが、『ある男』のテーマだと感じました。
映画が楽しみです。
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