『ミカエルの鼓動』読了。
柚月裕子作品は、『盤上の向日葵』以来、2作目です。
医療ミステリというジャンルに分類されると思うのですが、残念ながら、最後まで、主人公の気持ちが理解できませんでした。
なぜだろう?
手術支援ロボット「ミカエル」
『ミカエルの鼓動』は、心臓外科医の西條が、手術支援ロボット「ミカエル」を普及させることで、平等な医療を目指すことがテーマに描かれています。
まず、この「平等な医療」の定義があいまいなままに、物語が進行しているように感じました。
面川自身は、医療に平等はない、と考えています。
これは自分自身の経験もあってのことです。
以前、事故で骨折したとき、たまたま運ばれた病院に、たまたま骨の専門家たちが1ヶ月前に集団で移動していたおかげで、ちょっと面倒な手首の骨折が、きれいに、しかも早く完治したという経験をしました。
もし、その病院に骨の専門家が存在していなかったら、後遺症が残っていた可能性があります。
さらに、医療従事者には、専門分野での優劣はもちろんのこと、経験量、対人コミュニケーション能力といった、様々な能力の違いがあります。
人間である以上、平等な医療なんてない、実現できないと思うのです。
ブラックジャックばりの天才の登場
手術支援ロボット「ミカエル」の使い手としてはトップに立つ西條ですが、ブラックジャックばりの素早い手術の腕をもつ天才医師・真木の登場に、心穏やかではなくなります。
医療ミステリにはよくある、ライバル登場です。
『ミカエルの鼓動』における「平等な医療」とは、手術支援ロボットによって難しい手術が誰でもできることのように読み取りましたが、この対極に位置するのが、手術職人のような真木の存在です。
余人には真似できない、手術の才能を発揮できる人物です。
ここにも面川は違和感があって、そもそも手術支援ロボットであっても、人間が操作する以上、上手下手があるはずで・・・。
そんな真木の存在感に、自分の立ち位置を脅かされる西條には、さらに大きな問題が降りかかります。
「ミカエル」に不具合
しょせん機械なので、不具合はあります。
そして手術支援ロボット「ミカエル」にも不具合があり、その不具合によって、人命が失われている・・・。
そんな疑惑を深めた西條は、難病の少年の手術の担当医となるも、助手に真木を指名します。
いわば、「ミカエル」が動かなくなったときのためのバックアップとして、ブラックジャック真木を据えたわけです。
そして、この手の物語の佳境の手術で、やっぱり「ミカエル」が誤作動を起こしてしまうのです。
西條は、真木に後を頼み、術式を変更して、少年の命を救います。
ところが西條、病院を去る
ところが、西條は、自分の思い上がりで少年を殺してしまうところだったと、病院を去ってしまうのです。
ちゃんとバックアップにブラックジャック真木をおいて、手術は成功したのに、です。
このあたりの展開は、「???」です。
自分の気持ちはともかくも、「ミカエル」の誤作動があるかも、と術式変更がすぐにできるようにチーム編成したのは、西條本人なのに、なぜ病院を去る?
どこまで清廉潔白居士なんだよ。
と、突っ込みたくなるうえに、理解不能。
機械なんだから、いざという時のための術式変更やバックアップ体制は、むしろリスクヘッジ、リスクマネジメントでは当然のこと。
西條がやったことは、一般企業では当然のことですよ、おいおい。
それなのに、どこまで自分を貶めればよいのだ、と感じます。
このあたり、読んでいて不自然さを感じます。
『盤上の向日葵』と比較すると・・・
『盤上の向日葵』も、前半の刑事の戯言みたいな部分はすっ飛ばしてよし、という感じでしたが、少なくとも最後まで主人公に寄り添うことはできたと思います。
それと比べると、『ミカエルの鼓動』は、登場人物がほぼほぼ善人で、しかもアクがない。
心臓外科手術のことを描くだけで、息切れしちゃったのかな、という印象を持ちました。
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