【原田マハ】「楽園のカンヴァス」

楽園のカンヴァス」読了。


原田マハさんだし、絵画を巡る謎解きとあって、すぐに買ってしまいました。

山本周五郎賞を受賞した作品でもあり、読み応えありでした。




画家アンリ・ルソーの人生をたどる

ルソーを研究する2人の男女が、謎の多いコレクターに招かれ、ルソーの絵に酷似する一枚の絵が、真作かどうかを判定する。


これが、「楽園のカンヴァス」の9割を占める物語です。

若い男女が、対決という形で出会うのですが、そこに描かれているのは、アンリ・ルソーという画家の人生です。

研究者同士の論じ合いだけなら、興味のない人には、まったく面白みに欠けるものになるテーマですが、著者は、アンリ・ルソーという画家のエピソードを巧みに取り入れ、ミステリー仕立てにしています。

謎のコレクターに招待された2人の男女は、ルソーに関する不思議な物語を、7日間にわたって、読むことになります。

その7日間に、アンリ・ルソーとピカソ、そしてオークションハウスの思惑が絡み合い、疑心暗鬼になっていくのです。


アートをめぐるミステリー?それともファンタジー?

アンリ・ルソーを最初に見出したのはパブロ・ピカソであった、と本書には書いてあります。

2人が読む物語のなかで、ピカソはルソーの才能を認め、自分の作品を描いたカンバスをルソーにやり、この絵の上に自分の絵を書くように、とうながすシーンがあります。

このことが、オークションハウスが競り合うような状況証拠となっているというのです。

ピカソの青の時代の作品が、ルソーの絵の下に隠れているというのです。


もしこれが本当だとしたら、ルソーの絵は消されてしまう。

2人のルソー研究者にとって、それは許されないことです。

どうすれば、ルソーの絵を残すことができるのか。

2人の思いは、そこに収斂していくのです。


大原美術館

主人公のひとり、早川織江は、倉敷の大原美術館のセキュリティスタッフです。

ルソーの研究をやめ、アートに寄り添うセキュリティスタッフとなっています。

大原美術館は、国立西洋美術館と並ぶ、行くべき美術館のひとつだと思います。

その大原美術館のセキュリティスタッフの早川織江のもとに、MoMA(ミューヨーク近代美術館)から指名があるのです。

 

それも、交渉役として。

早川織江を指名したのは、かつて一緒にルソーの物語を読み、ルソーを守った相手でした。

楽園のカンヴァス」の残り1割は、現代に戻り、MoMAで2人の男女が出会うことを描いています。

最後まで読むと、ミステリーと言うよりもファンタジーだと感じてしまうのは、あまりに美しい物語として終わるためです。

場所も、大原美術館とMoMAだなんて、出来すぎです。

しかし、読者は、その幸せで出来すぎたファンタジーを求めるように仕組まれているのではないでしょうか。

原田マハさんの作品は、そんなことありえない!と断じることができないような、不思議な感覚にさせてくれます。

楽園のカンヴァス」も、そんなことありえない!と反論したくない、そんなご都合主義はない、とは言わせない世界観が描かれています。

とても、面白い作品です。



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