【浅見 雅男】「大正天皇婚約解消事件」

大正天皇婚約解消事件」読了。

生まれながらに虚弱であった大正天皇の結婚相手に誰が適当か、明治天皇や伊藤博文が、どのような社会的、政治的背景をもって事にあたったのかが、克明な調査をもとに書かれています。



天皇家の後継者問題でもある結婚は、現在では、国民が大きな関心を寄せるテーマです。

眞子さまの婚約についても賛否両論が沸き起こるくらいですから、天皇とその後継者に関心のある方は、手にとって読まれることをおすすめします。






「大正天皇婚約解消事件」とは?

大正天皇の婚約解消とは、皇族である伏見宮禎子(さちこ)女王との婚約がいったんは成立したものの、のちに華族の九条節子(さだこ)が結婚相手となった史実のことです。

伏見宮禎子(さちこ)女王との婚約が解消された原因は、健康ではない、というのが主な理由ですが、その背後には、明治天皇の思惑や、明治政府の事情などが絡み合っています。

結論からいえば、4人の男子を生んだ貞明皇后(九条節子)を選択したことは成功だったと言えますが、健康問題が取り沙汰されて婚約解消となった最大の原因は、大正天皇が生まれながらに虚弱であったことにあります。

虚弱な皇太子に、虚弱な婚約者では、皇統の継承に問題が起こる。

それが、衆目が一致した理由だったのです。


明治天皇の考え

大正天皇婚約解消事件」を一読してわかったことは、近代日本における皇室の在り方の変化が、大きく影響しているということです。

明治天皇は、近代日本となってからの初代天皇ですが、あたらしいルールのなかで、皇統を継続するために何をすべきか、に精力をむけていたようです。

そのなかで、明治天皇が、政府に従わずに推進したのが、宮家の維持と新設でした。

平成においても、女性皇族ばかりだったころに、宮家を復活させるべきではないか、という議論がありましたが、悠仁さまが誕生され、その議論は下火になりました。

そもそも、日本の天皇は、1500年以上も男系で続いている、世界でも珍しい王室です。

男子は、女子よりも生存しにくいのは生物学的にも証明されていますが、それゆえに、明治天皇は宮家を積極的に新設し、その維持に注力していました。

また、皇族が誕生したことにより、江戸時代まで続いた五摂家から皇后が誕生する先例を見直すようになったことも、明治天皇の時代からです。

明治天皇ははじめから、臣下である五摂家(華族)からではなく、皇族から皇太子の婚約者を選びたいと宣言していました。

そこで選ばれたのが、伏見宮禎子(さちこ)女王なのですが、先に書いたとおり、健康面に問題があるという理由で、結婚相手とふさわしくないとされたのです。

しかし、明治天皇は、この決定にひどく悩まれていました。



伊藤博文の考え

いっぽう、明治政府はもちろん、宮廷内部にも、その力が及んでいた伊藤博文は、皇族から選ぶことに反対していました。

明治天皇の言うとおりに宮家を増やしていたら、国家予算がいくらあっても足りない、という財政面の問題と、皇族が増えることによって生じるトラブルを回避したいという政治的な側面とがありました。

当時、すでに皇族による独断・専横的な態度(小松宮彰仁親王)や、皇族の女性スキャンダルなどが発生しており、政府や宮中内部でも問題視されていたため、宮家をむやみに創設することに、伊藤博文は反対の立場にありました。

そのため、大正天皇の妃には、皇族ではなく華族から、というのが、政治家・伊藤博文の既定路線だったようです。


昭和天皇をめぐる宮中某重大事件

大正天皇の婚約については、父である伏見宮貞愛(さだなる)親王が、明治天皇からの婚約解消の通達をすんなりと受け入れたために、その後、大きな騒動とはなりませんでした。

しかし、一度あることは二度あるのたとえの通りのことが起こります。

昭和天皇の婚約においても、婚約を解消すべき、という声があがるのです。

今度は、婚約者の久邇宮良子(ながこ)女王には、色覚異常の血統であるとの理由で、山県有朋や原敬などが反対します。

しかし、父である久邇宮邦彦親王は、これに反発します。

貞明皇后に対し、言上書を提出し、さらには、民間の壮士をつかって怪文書をばらまくという暴挙に出てゴリ押し。

結果的には、昭和天皇は良子女王と予定通り、結婚します。

この頃、大正天皇が心身ともに弱っていたために、宮中某重大事件が起こってしまったのだと著者は書いています。


眞子さまの婚約は?

著者は、眞子さまの結婚相手についても、もう少し検討したほうが良いのではないか、という立場をとっておられるようです。

小室圭さんについては、さまざまな事実と憶測が流れており、結婚問題について、秋篠宮家もギクシャクしているかのような報道すらあります。

皇統の継続について、私たち国民がもう少し関心を持てば良いのかも、と、本書を読んで感じました。



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