上橋 菜穂子
天と地の守り人(3点セット) | ||||
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前作の「蒼路の旅人」を序章とした、チャグムの成長物語、と書いてしまうと簡単ですが、人間のこころのうちを、様々な角度、立場からかかれた物語、ともいえるでしょう。
北の大陸を手中に入れようとするタルシュ帝国は、ふたりの王子たちが競って侵略を行っていて、一枚岩とはいえない状況。
一方の北の大陸(ロタ、カンバル、新ヨゴ)は、それぞれに事情が異なり、なかなか連携できずにいて、しかもタルシュの手先に情報操作までされてしまっています。
そんな国際情勢のなかに、チャグムがあらわれて、物語はどんどんすすんでいくのです。
それぞれの立場にたったとき、その人間がどのように考え、行動するのか、が多角的に描かれていて、チャグムはそれをときに察知して、最適解を出すのですが、それは自分が育てられた「神の子」とは程遠いものであることに気づき、愕然とするのです。
②カンバル王国編を読み進めていくうちに、異世界ナユグの変化が、現実世界サグに影響を与えることが具体的になってきました。
このあたりから、私には物語の終わり方が読めてしまっていて、あとはストーリーをおいかけるだけになってしまいました。
ちと残念。
新ヨゴ王国を日本になぞらえていることが、いっそう明確化してきたのも 「天と地の守り人」 です。
神の子が帝になる新ヨゴ皇国、そこに軍を率いて登場し、世俗の人間として帝になるチャグムの、いわゆる「人間宣言」は、まるで昭和天皇のようです。
バルサも、最後は収まるべきところに収まっていくあたりも、当然といえば当然の流れ。
上橋 菜穂子
バルサの生い立ちは「闇の守り人」にえがかれていますから読者として外せない要素ですが、サブキャラのことまで書く必要があるんだろうか、などと思ってしまいます。
つまり、書き込みすぎ、という印象です。
小説のさらり感がなくなってしまうと、それは違うな、と感じてしまいます。
ちなみに、胸のあつくなった場面はこちら。
先頭の騎馬武者が近づき、その顔が見えはじめたとき、ガシェは目を丸くした。
それは不思議な光景だった。先頭の騎馬武者の周囲には、彼を守るように、たくましい騎馬武者たちが馬を並べているが、彼らは、ロタ騎兵だけではなかった。半数が、独特の短槍を持つカンバル騎兵だったのだ。
そして、ロタとカンバルの騎馬兵を率い、磨き上げられたカンバル風の胴当てを纏っている先頭の騎馬武者は、なんと、ヨゴ人だった。しかも、若い。まだ二十歳にもなっていないように見える。
目のわきに刀傷があるその若者から見おろされたとき、ガシェは、思わず背をのばした。・・・・・そうせずにはいられぬなにかが、その若者にはあった。
チャグムが、北の大陸の同盟をまとめあげ、新ヨゴへと進む姿を描いた部分です。
この守り人シリーズが、国際的にも評価され、日本を代表するファンタジー作品であることがよくわかるのが、 「天と地の守り人」 三部作だと思います。
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