『汝、星のごとく』読了。
凪良ゆうさんの作品は、『流浪の月』『美しい彼』に続いて三作目。
凪良ゆうさんは、初恋を描く名手だと思いました。
21世紀のムラ社会に生きる若者
日本は、先進国ぶっているけど、19世紀から続くムラ社会の価値観がしっかりと残っている国だと、誰かが書いていました。
例えば、映画化された『ノイズ』とか、櫛木理宇さんの『鵜頭川村事件』など、典型的なムラ社会で、若者が翻弄される物語が人気です。
インターネットで世界中の情報を得られるのに、自分の周囲には他人の目が光り、息苦しさを感じる人が多いからではないでしょうか。
『汝、星のごとく』は、瀬戸内海の島に生きる男女の物語です。
島のなかで恋愛をしたら結婚前提。
しかも、何がいつ起こっているのか、誰もが知っているプライバシーゼロの社会。
女性が自立することが難しい、狭い社会では、こんなことになっていくのか、と考えさせられます。
ネグレクト、ヤングケアラー
声高に描かれていませんが、主人公の男女は、それぞれ親の都合で人生に影が差しています。
男に走る母親をもち、子どもの頃からネグレクトされてきたがゆえに、ダメな母親と縁を切ることができない男。
そして、父親が不倫家出したがゆえに、精神的に壊れた母を置き去りにできずに面倒を見続ける女。
高校時代にであって、お互いに必要としているにも関わらず、男は漫画家として成功し、島に残った女との距離が開いていきます。
そして、女は別れを切り出すのですが、男にとって心許せるのは女だけ。
そこに大きな事件が勃発します。
人気漫画家からの転落
男は物語を紡ぐ原作者でしたが、作画を担当する相棒はゲイで、高校生の恋人がいます。
このことが世間に知られることで、人気漫画家としての地位を失ってしまう男は、酒浸りの日々へと転落します。
同じタイミングで、女は霊感商法にハマってしまった母親によって経済的に苦境に立たされ、仕方なく男に借金を申し込みます。
男はすぐにお金を振り込みますが、女とは連絡がとれません。
それ以降、男は女からの振込を待ちわびる日々を送るようになるのです。
深酒から胃がんに
男は胃がんが発見され、手術しますが、ふたたび倒れ、転移がわかります。
女がそのことを知ると、自分のやりたいことを行動に移します。
その頃には、女は「互助会」と呼ぶ結婚を高校時代の恩師とし、自活できるレベルの収入を得ていました。
男は逆に、生活保護を受けるまでに堕ちています。
お互いに30歳を過ぎ、プライドをかなぐり捨てて、自分が求めることを実行する。
そのためには、切り捨てるものは切り捨てる勇気、そして経済的な自立が必要だということを、『汝、星のごとく』は、何度も畳み掛けてきます。
他人に依存していては、自分の欲しい物を手に入れることはできない。
本書のテーマは、自分で自分の生き方を決めることの難しさを描いているようです。
男の死後
男は予想通り、女と一緒に花火を見ている間に亡くなってしまいます。
その後、「互助会」夫婦はそれぞれの生活、生き方を島で送るようになります。
夫は、かつて最も愛した女(元教え子)と再会し、毎月その女のもとに通うことに。
そして、女はそれをあたたかく見守ります。
島の噂話には翻弄されない、自分が満足ならそれだけで良い人生を獲得したのです。
プライベート不在のムラ社会において、自分だけを見つめ、他の価値観に振り回されない生き方をするのは、難しいことだと思います。
が、『汝、星のごとく』を読むと、経験だけで生き方を変えることはできないことに気づきます。
「自分が大事」という価値観をもった大人のサポートが、弱い心を勇気づけてくれるようです。
初恋の物語
最初に書いた通り、凪良ゆうさんは初恋の名手だと思います。
『流浪の月』は、性愛の介在しない男女の関わりを描いていますが、最終的に二人は人生をともにする決意をします。
性愛はなくとも、深い絆で結ばれる男女というのは、『汝、星のごとく』のなかでも「互助会」夫婦として再現されています。
また、『美しい彼』はBLですが、高校時代の出会いから、長期に渡る二人の関係を描いている点において、まさに『汝、星のごとく』に近いと思います。
また、二人の主人公を表裏一体に描いている点も『美しい彼』に似ています。
この人しかいない、と思い詰めてしまう点も共通しているようです。
凪良ゆうさんにとって、初恋とは、恋愛要素は欠かせないものの、決してそれだけではないものなのだと思います。
お互いに相手を尊重できる関係、自分を見失わずに付き合える対等な関係であって、どちらかが犠牲を払うような関係ではありません。
人間対人間の関係。
そんな人間には、一生のうち、そうそう出会えないからこそ、そんなフィクションに心動かされるのかもしれません。
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