『ハウス・オブ・グッチ』上下巻

ハウス・オブ・グッチ』読了。

同名の映画が公開される前に読んでおこう、と思って手にとったのですが、すごくおもしろいノンフィクションでした。


映画は、レディー・ガガ主演で、愛憎渦巻くグッチ一族を描き、その中心に3代目社長のマウリツィオ・グッチ殺人事件を置いたものだと思います。

(まだ観ていないので、推測ですが・・・)

しかし、『ハウス・オブ・グッチ』に描かれているのは、グッチ一族という特別な家族に起こった事件ではありません。

ファッションビジネスだけでなく、ビジネス全般に興味のある人におすすめできる内容です。




家族経営企業が世界のハイブランドへ

グッチといえば、ファッションを牽引する世界のハイブランドですが、1980年代までは、家族的経営の典型的なイタリア企業でした。

しかし、製造はイタリアで行ってはいたものの、家族間でブランド名を勝手に使って商品展開するなど、とてもハイブランドとはいえないような事態に陥っていました。

「セレブに愛されるブランドに戻ろう」と決めた3代目社長・マウリツィオは、そのために家族間での激しい争いを闘い抜き、そして勝利を収めます。


この勝利の過程は、家族間にばらまかれた自社株、そして子会社などをいくつもつくって複雑化した所有権など、まさに家族経営企業が陥っている様子が細かく描かれています。



インヴェストコープへ売却

マウリツィオのために資金を調達し、株を買い集めたのは、投資銀行のインヴェストコープでした。

マウリツィオが語るグッチの未来はすばらしく、投資銀行家たちは、次々とマウリツィオの魅力に取り込まれていきます。

ついにグッチを掌中にしたマウリツィオでしたが、急激な経営方針の転換のために、グッチは複数年に渡る赤字経営となり、商品をつくるための資金まで枯渇してしまいます。

インヴェストコープは、マウリツィオをグッチの経営から手を引かせることにし、グッチの経営に乗り出します。

このとき、経営陣として残ったのが、トム・フォードとドメニコ・デ・ソーレです。

トム・フォードは、マウリツィオが引き抜いたアメリカ人経営者が連れてきたデザイナーに過ぎなかったのですが、以降、グッチの再生に欠かせない人物となります。


さらに、ドメニコ・デ・ソーレは、マウリツィオの父・ロドルフォが見つけ出した弁護士であり、そもそもファッション業界の人間ですらありません。

皮肉にも、マウリツィオが見出した人々が、グッチ一族がブランドビジネスから離れたあと、グッチを盛りたて、成長させたのです。



マウリツィオ殺人事件

グッチ一族がグッチの経営から離れた直後、マウリツィオは暗殺されます。

その犯人が元妻のパトリツィア・レッジャーニであるとわかるまで、2年以上が経過します。

その理由は、マウリツィオが狙われる理由があまりにもありすぎたからでしょう。

一族の間には不信感が横たわり、グッチ一族を、グッチの経営から遠ざけたマウリツィオへの憎しみもあります。

疑わしい人々は多いわりに、事件発生当時は決め手を欠いた事件だったようです。



LVMHとの攻防

ハウス・オブ・グッチ』のすばらしい点は、マウリツィオ殺人事件だけにとどまらず、その後のグッチを描き出したことでしょう。

なかでも、ハイブランド帝国といっても過言ではないLVMHから買収を仕掛けられ、それを切り抜けるまでの攻防は、わくわくするほどおもしろいものです。

何度も倒産すれすれまで落ち込んだグッチは、いつの間にか多国籍企業となっており、それぞれの国の法律によって制度が違う株式市場と会社法のおかげで、LVMHの買収攻撃からかろうじて逃げ切ります。


本書では、ベルナール・アルノーが本当に嫌なヤツに描かれていて、なかなか興味深いです。



グッチと日本との関わりも

1970年代の終りに、ルイ・ヴィトンを見出したのが日本人だとすると、1990年に再生したグッチを買い漁ったのも日本人。

ハイブランドの歴史には、日本人が深く関わっているようです。

ハウス・オブ・グッチ』には、グッチと日本人との関わりについても詳しく書かれていて、興味深く読むことが出来ました。

トム・フォードのアシスタントをしていた袴着淳一さん、グッチの日本代理店をしていたサンモトヤマ、または日本に帰化したイタリア人実業家のデルフォ・ゾルジなど、表にも裏にも登場します。

単なる家族間の抗争、企業経営にかかわる主導権争いだけで終わらない、エピソード豊富なノンフィクションです。


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