【眞邊明人】『もしも徳川家康が総理大臣になったら』

もしも徳川家康が総理大臣になったら』読了。



新型コロナウイルスのため、総理官邸でクラスターが発生。

ときの総理大臣が新型コロナウイルスで死亡し、政治は大混乱。

そんなとき、AIとホログラムで、歴史上の英傑たちが国家を運営したら・・・?

そんな物語です。



歴史と現代政治を絡めたエンタメ小説

総理大臣が徳川家康、財務大臣に豊臣秀吉、経済産業大臣に織田信長、官房長官に坂本龍馬など、日本史のスーパースターが閣僚として登場します。

この小説の面白いところは、歴史上の人物の事績から、閣僚としてのポジションを決めている点です。

豊臣秀吉の筆頭吏僚であった石田三成はともかく、徳川綱吉の治世に経済官僚として腕をふるった荻原重秀、のちに悪左府と呼ばれた平安時代の藤原頼長など、あまり知られていない登場人物もいますが、歴史に詳しくなくとも、十分に楽しめます。



やれない理由よりやれる方法を考える

とくに痛快なのが、日本中で1ヶ月間のロックダウンを断行し、これにあわせて10日で、ひとり50万円の給付金を支給するというもの。

豊臣秀吉が宣言し、石田三成のもと、10日で全国民に支給する方法を考え出します。

実際に、このとおりにやれば、10日で給付は完了するだろうな、と思えるくらいに具体的ですから、読んでみてください。

最後は、現金をその場で手渡しとなるのですが、そのときの方針が、不正を禁じるよりもまずは支給。

そして、不正を働いたものには厳罰を下す、というものです。

そのためには、警察組織を有効に使って、ロックダウンに反するものも厳しく摘発。

一切の例外は認めない、という強い態度です。

そこには、厳しい局中法度で組織を運営した新選組も登場します。

これには納得ですし、やはり警察の力が必要だと感じる人が、ここにもいたのか、と思いました。

また、本当のエリートとは、やれる方法を考え出す人物である、という強烈なメッセージが伝わってきます。


縦割り行政を排除

一度死んでいる日本史の英傑たちに忖度はありません。

そのため、もっとも合理的、かつスピード感のある政策を次々と決定し、実行していきます。

実行にあたっては、官庁の縦割りを廃し、関係する省庁がともに協力します。

そのために、人事改革をおこないます。

江戸時代の官僚、明治政府の官僚、さらに現代の官僚のそれぞれが、もっとも効率的な組織を作り上げるというのです。


命がけの人が持つ存在感

もしも徳川家康が総理大臣になったら』のなかで、折りに触れ語られるのが、「命」です。

命がけで時代を駆け抜けた英傑たちにとって、その判断の成否が、命を失うことになりかねず、とくに戦においては、判断ミスによって多くの家臣を失います。

命がけで生きた英傑たちの決断力、その存在感と説得力は、死と隣り合わせであるからこそ、であると感じるほど、物語のなかで語られるのです。

この物語は、命がけの人と、そうではない人との違いを対比しているかのようでもあります。

織田信長経済産業大臣として、経済界のトップリーダーに、巨額の国債を引き受けるように恫喝するシーンなどは圧巻です。

また、大久保利通の手腕も描かれていて、大久保利通と織田信長なら、震え上がっても仕方がないかも、と思います。



後半はSF

物語の後半は、AIとホログラムの内閣で、「暗殺」が起こるところからはじまります。

「暗殺」といっても、サイバー攻撃を受けて、徳川綱吉と吉宗のデータがすべて抹消されたわけですが・・・。

このあたりから、SF感が増してきて、物語は現代の国際社会、とくにアメリカとの関係へと言及されていきます。

そして、この内閣をつくったプログラマーは誰なのか?といったストーリーへと舵を切ります。


「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」

ビスマルクの有名な言葉ですが、『もしも徳川家康が総理大臣になったら』は、まさにこの言葉を表現しているかのようです。

少々、出来すぎでご都合主義的ではありますし、「日米が反目して得をするのは中国だろ」とツッコみたくなる部分もありますが、エンタメとしてもかなり楽しめます。

また、あちこちに散りばめられた金言にも、心惹かれます。

オススメです。


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