『鳩の撃退法(上・下)』読了。
佐藤正午作品をはじめて手にとりましたが、おもしろい、と感じました。
ストーリーだけを追うのであれば、文庫で上下巻にもなる長さが必要か?と思いますが、それこそが『鳩の撃退法(上・下)』のおもしろさでもあります。
藤原竜也さん主演で映画化されると知って、読んでみたのですが、変化球が好きな人におすすめです。
元直木賞作家が書く事実に基づいた小説
『鳩の撃退法(上・下)』は、主人公であり、かつては直木賞も受賞した作家が、現実に起こった事件をもとに書き勧めている小説、という設定です。
この段階で、かなりわかりにくいのですが、この設定こそが、『鳩の撃退法(上・下)』のおもしろさの源泉となっています。
読者は、佐藤正午という作家が書いているフィクションだと知っているにもかかわらず、主人公の落ちぶれた津田伸一が書いている小説に引き込まれていきます。
そして、東野圭吾作品なら、こんなことにページは割かないよ、ということに、ひたすらページが割かれていきます。
自分が陥っている状況を把握するために、主人公は、やたらと質問します。
そのやり取りが、とにかく多くて、ときに笑ってしまいます。
そして、事件に巻き込まれた主人公の行動や言葉には、リアルを感じることができます。
作品の大部分が、主人公のモノローグであったり、登場人物との会話であったりする長編大作ですが、飽きずに読み進めることができました。
偽札事件に巻き込まれる
主人公は、遺産として大金を譲り受けますが、最初に使った1枚が偽札だったがために、使いたいけど使えないお金になってしまいます。
なぜなら、その出処であるところの裏社会の人間に見つかったら、どうなるかわからないと脅されるためです。
お金に困って、女性の家を転々としてたかり、日銭稼ぎのためにデリヘルの運転手をしている主人公は、黒ではないけどグレーな生活を送っているため、裏社会とまったく無縁ではありません。
警察に相談することもできない、という設定が、物語を大きく動かしていきます。
一家3人神隠し事件
『鳩の撃退法(上・下)』の冒頭に描かれる家族が、突然消えるという事件もまた、主人公の身近で起こっていて、しかも間接的に関係もしているということが、のちに判明します。
こちらはこちらで、人間関係が複雑で、主人公の作家との関係図を書きたくなるぐらいです。
作家の主人公は、この事件に振り回されながらも、この事件を小説に仕立てようというところから、書き出していくようです。
大河ドラマのように登場人物が入れ替わる
『鳩の撃退法(上・下)』では、長編なだけに、登場人物がかなり多いといえます。
はじめのうちは、主人公がよく通っているドーナツ屋の関係者程度なのですが、読んでいるうちに、どんどん登場人物が増え、そしてメインが入れ替わっていきます。
主人公が小説を書いているので、そこに登場する人物がいて、さらに現実(小説としての)の主人公は、居場所を変え、職場を変えるため、主人公の周辺人物が変化します。
その人間関係を覚えていないと、おもしろさが半減するので、『鳩の撃退法(上・下)』は、できれば一気読みで読んでいただきたいと思います。
小説はとても楽しめましたから、映画が楽しみです。
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