中山七里さんの「カインの傲慢」読了。
映画『ドクター・デスの遺産-BLACK FILE-』を観て、犬養隼人シリーズの、たぶん最新作を手にとってみました。
「護られなかった者たちへ」
中山七里作品を読むようになったきっかけが、「護られなかった者たちへ」でした。
「護られなかった者たちへ」を手にとったのは、佐藤健さん主演で映画化されるという帯が目にはいったことが第一の理由で、第2の理由は、日本における貧困問題です。
「カインの傲慢」は、「護られなかった者たちへ」をベースに、臓器売買や人身売買という犯罪を付加した物語、といえます。
貧困者は、自分の臓器を売るしかない。
『闇金ウシジマくん』に代表される闇金ものの映画や物語では、かなり前から臓器売買はテーマにとりあげられていました。
しかし、それでも物語の域を出なかったと感じていたのに、「カインの傲慢」を読むと、それが、急に身近に感じます。
日中を股にかけた臓器売買
「カインの傲慢」は、中国人少年の遺体が、公園で発見されるところからはじまります。
最初は、中国人であることはもちろん、身元不明の少年です。
しかし、アゴがしっかりしていることから、日本人ではないのでは?という機転が働き、人身売買で日本に送られてきた中国の少年だと判明します。
著者は、この物語の冒頭から、日本と中国の臓器売買に対する違い、倫理観、制度などを明らかにしていきます。
犬養隼人シリーズは、娘が重い腎臓病を患っていることが、犬養隼人の倫理観を試すような事件ばかりが起こります。
『ドクター・デスの遺産』では安楽死、「カインの傲慢」では臓器移植。
どちらも、犬養隼人を悩ませます。
権威か金か
そして、「カインの傲慢」のなかで縦横無尽に走るのが、権威とお金です。
これは、中国社会そのものであり、犬養隼人は、これをうまく使いこなして、事件を解決していきます。
日本だけでなく、世界中の貧困者は、最後は自分の身体をお金にかえます。
そして、権威をもつ者は、その権威によって身を守られるのです。
犬養隼人は、そんな価値観をもった相手に対して、追い込みをかけます。
丁々発止のやりとりは、最後まで一気に読み通さずにはいられない、スピード感があります。
親の愛はどこまで許されるのか?
「カインの傲慢」で取り上げている臓器移植は、自分自身というよりも、自分が守りたい、助けたい子どもが対象となっています。
もしも自分の子どもが、臓器移植しか残されていないほどの病気だったとしたら?
そんなことを考えさせられるテーマです。
お金で解決できるなら、たとえそれが犯罪であったとしても、子どもの命を最優先させるかもしれません。
法律があるので、遵法精神と天秤にかけるテーマになりますが、それでも、臓器移植を選択する親は少なくないのではないでしょうか。
犬養隼人シリーズが、わかりやすく、人気もあるのは、一言では片付けられない問題をテーマに取り上げているからだと思います。
臓器移植には医師や医療関係者が関与していることから、中山七里さんのお得意の「大どんでん返し」は、期待したほどではありませんが、「カインの傲慢」は、一気読みしたくなるのは間違いありません。
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