【一田 和樹】「御社のデータが流出しています: 吹鳴寺籐子のセキュリティチェック」



御社のデータが流出しています: 吹鳴寺籐子のセキュリティチェック」読了。

サイバーセキュリティをテーマにした一田和樹さんの、6月22日に発売された最新刊です。

80歳を超えたサイバーセキュリティコンサルタント・吹鳴寺籐子と、その相棒的な営業担当・鈴木陽生が、データ流出事件にとりくむという短編集。

御社のデータが流出しています: 吹鳴寺籐子のセキュリティチェック (ハヤカワ文庫JA)

一田 和樹 早川書房 2017-06-22
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主人公が高齢者なので、若さが尊ばれるIT業界、それもサイバーセキュリティの分野ではかなりの異分子という設定です。

読みながら、吹鳴寺籐子は市毛良枝さん、鈴木陽生は佐藤健さんでドラマ化してほしいと思いました。

吹鳴寺籐子は、笑うと目が一文字になるという特徴があるので市毛良枝さんかな~、と。

鈴木陽生は20代、赤ちゃんのような無垢な表情の裏には計算高い顔があるという曲者なので、佐藤健さんがいいかな~、と。

そんな妄想をたくましくして読み進めていきました。





第1話 フェイクタイム 偽りの個人情報漏洩事件

ここに登場するのはオンラインゲームなどを提供する企業。
モデルはソニーみたいです。

システム部が関知しない、宣伝部が実施したキャンペーンに応募した顧客情報が流出した、という事件のように見えて、実はフェイクだった!という内容です。

大企業によくみられるセクショナリズムを、作中ではN電機となっていますがあきらかにNECを指して、役人より役人と呼ばれる体質を揶揄することで表現しています。

作者特有の、実体験からくる皮肉が効いています。


第2話 見えすいた罠 企業内情報漏洩事件

第2話は、犯人にも罠をしかけることで、直接対面するという展開がおもしろいストーリー。

監視カメラがある職場で、だれも操作していないパソコンから情報が盗まれた!
いったい誰が犯人なのか?

新品のパソコンを買って安心している犯人と、直接やりとりして追い詰める吹鳴寺籐子。

そのパソコンに罠が仕掛けられていて、実は動画がネットに公開されていた、という展開です。

わくわくドキドキ、どんでん返しです。


第3話 キャッチボール効果  偽ウィルスソフト詐欺事件

新型ウィルスに感染したから駆除するためにこのソフトを購入しろ。

というメッセージが、自分が信頼しているベンダーから届いたら、即、対策ソフトを購入してしまいそうになりますが、そんな心理をついた詐欺事件が発生し、吹鳴寺籐子が登場するという物語。

確信犯が登場する本作は、自分の欲望のためには平気で他人をだます人がいる、という事実(歴史的にも)を描いています。

しかも、人の記憶を操作することで、ミスリードする真犯人の手口には、「こういう人いるわ」と思わず納得です。


第4話 パスワードの身代金 COBOLレガシーシステムの罠

こちらは、孤独が引き起こした事件。

個人情報3万件が公開されてしまう、パスワードの身代金を要求する事件がおこります。

内部犯行が疑われるなか、いったい誰がどんな理由で、こんな事件を起こしたのか?

個人に頼りすぎると危険という、当たり前といえば当たり前のことができなくなっている原因のひとつが、古いプログラム言語の存在です。

その代表例がCOBOL。

プログラミングが小学校で必修化される動きが出ていますが、新しい言語だけでなく、古い言語との連携についても教えていかないと、こんな事件が多発するかもしれないと思わせてくれます。


技術より人間を見よ!

一田作品を読むといつも感じることですが、サイバーセキュリティは技術が主役なのではなく、人間の欲望が事件を引き起こし、その欲望ゆえにだまされることを描き出しています。

著者あとがきにも

「サイバー空間は、これまでとは違う形で人間のあり方を問い直す場所」

と書いてあります。

歴史を学ぶと、時代は変わっても人間は変わらない、と思うようになりますが、まさにサイバー空間をいろどる技術は年々変わっても人間は変わらないのだと、これら4篇に描かれています。

また、80オーバーの高齢者を主役としたことで、超高齢化社会に生きる単身シニアの生活感や寂しさも、物語に込められています。

明るい未来を夢見ることができない現代日本に生きる若者と、余命がせいぜい10年くらいの高齢者とは、じつは見ているものが同じなのかも、と感じさせられました。


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