垣根 涼介さんの「光秀の定理」読了。
久しぶりに読んだエンタメ小説が、明智光秀の物語でした。
本屋でみかけた途端に手に取っていたのは、ドラマ「信長協奏曲」の再放送を全話みて、映画のほうも見てしまったからだと思います。
小栗旬 フジテレビムービー 2016-07-20
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昨年公開された映画「信長協奏曲」はもちろん上映初日に観に行きました!
ドラマシリーズのときから、設定がおもしろい、と思ってました。
いわゆるタイムスリップものですが、信長が光秀になってしまって、現代人のサブローが信長になっちゃう、というストーリー。
主演の小栗 旬は、はまり役だと思いましたし、なによりドラマシリーズでの、回を追うごとにサブローから本物の信長へと成長する過程には、わたしは感動を覚えました。
うまいなぁ、と。
というわけで、タイトルの光秀にがぜん興味をもってしまいました。
文庫版の帯には
「光秀はなぜ瞬く間に出世し、信長と前後して滅びたのか?」
という、思わせぶりなフレーズがありました。
さらにさらに、世界的なアーティストの村上隆さんが
「歴史小説?いやこれは、堂々とした青春小説だ。」
なんておっしゃている。
これは読まねば、と即決した次第。
ベイズの定理
「光秀の定理」というタイトルは、おそらく「ベイズの定理」からもじったもの。ベイズの定理とは、イギリスの長老派(キリスト教の一派)の牧師で数学者でもあったトーマス・ベイズが示したというか、証明したとされている、条件付き確率の定理です。
実はこれ、ネット業界ではよく知られたもので、ベイズの定理を基礎にして発展させたベイジアン・ネットワークは、人間の行動予測、異なる人格間のマッチングの最適化、多種多様な要因が複雑に絡み合っている事象の将来予測など、不確実で絶えず変化するために数式で表現が困難なものを、確率ネットワークの形態でモデル化したものとして知られています。
つまり、AI(人工知能)関連の基礎となる、ひとつの方向性がベイジアン・ネットワークなのです。
トーマス・ベイズは、自分の考えた法則で物事を考えると、ほとんどの場合、答えが事前にわかってしまっていたため、生前はこの定理を公表していませんでした。
18世紀の人ですから、未来を予測するなどは、神の領域を侵犯する、と考えていたためです。
トーマス・ベイズが牧師である、ということとも関係していると思いますが、現代においても、やはり未来予測は神の領域といえましょう。
「光秀の定理」のなかで、このベイズの定理をつかって辻賭博を行って小銭を稼ぐのが、釈尊のみを戴く僧侶の愚息であることは、トーマス・ベイズが牧師であったことをトレースしているかのようです。
光秀の定理 (角川文庫) | ||||
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確率論が光秀の出世を助ける
僧・愚息が勝ってしまう辻賭博のひとつはこうです。4つの椀のひとつに小石を入れ、小石の入った椀を当てさせるというもの。
胴元(愚息)は、まず賭けさせたあとに、4つの椀のうち、小石の入っていない2つの椀を選んでオープン。
残る2つのうちのどちらかに小石は入っていて、このとき、賭けたほうは最初に選んだ選択肢を変更することができます。
最初のうちは、勝ったり負けたりを繰り返すように見えているのですが、最終的には胴元が勝ちます。
これがベイズの定理をつかったゲームであり、この確率論が、光秀が大出世を遂げることになる六角氏の支城・長光寺城攻略において、応用されるのです。
もちろん史実ではありません。
城までの4つのルートのうち、3つには兵があり、残るひとつには兵がいないとわかった光秀は、このとき、愚息に相談します。
そして愚息から75パーセントの確率で兵がいないのはこのルート、と教えられ、結果、無傷で長光寺城を攻略するのです。
本作の全編にわたって、このベイズの定理が登場し、光秀ら登場人物と読者を惑わせてくれます。
明智光秀、ナレ死
この物語は、元倭寇でシャムのアユタヤで仏教に帰依した僧・愚息と、負け知らずの兵法者に成長する新九郎、そして明智光秀の物語です。つまり、明智光秀は主役とはいいがたいポジション。
そして、日本人なら誰もが知る「本能寺の変」は、作中では描かれていません。
光秀の死も、大河ドラマ「真田丸」風に書けば「ナレ死」です。
最後は、愚息と新九郎の回顧トークとして、光秀がなぜ信長を殺さねばならなかったのか、が語られていきます。
この回顧トークが、文庫版の帯にはあった
「光秀はなぜ瞬く間に出世し、信長と前後して滅びたのか?」
の回答にあたります。
自ら皇帝になろうとした信長を、宗教で言えば一神教の信者とすると、自らの神以外はすべて悪魔として排除しようとします。
しかし日本は、古来から多神教であり、神仏に対する柔軟性があります。
それが、光秀と信長の諍いの原因だと分析しています。
キリスト教は日本において変質した、という人もいるくらい、日本人の宗教観は一神教にはなじまないもののようです。
歴史が苦手な方にも楽しめるストーリーです。
おすすめです。
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