大野 和基 氏がインタビューした「知の最先端」読了。
知の最先端 (PHP新書) | ||||
|
カズオ・イシグロ氏がノーベル文学賞を受賞したので新たに購入したのですが、「知の最先端」というタイトル通り、非常に示唆に富んだ、おもしろい内容でした。
インタビュー相手は、カズオ・イシグロ氏を含む、それぞれ著名な方ばかり。
彼らが書いた名著も数多くあり、それらを一冊ずつ丹念に読むのも良いですが、この一冊を読めば、彼らのエッセンスを吸収できます。
ただし、これらのインタビューは古いもので2006年、最新でも2013年です。
それでも内容に古さを感じることはありません。
だからこそ「知の最先端」なんだと、読むと実感します。
シーナ・アイエンガー
高校生のときに失明した社会心理学者。アメリカ国内で50万部を売り上げた「選択の科学 コロンビア大学ビジネススクール特別講義」。
インタビューのなかで、彼女は、日本人の若者には楽観主義が欠如していて心配していると語っています。
その理由として次のように答えています。
「自分たちの人生は親の人生とはまったく違うが、その人生がどういうモデルになるのか、わかっていないことだと思います。彼らが理解すべきなのは、自分たちが歴史上、いかにユニークな地点にいるかということです。まるで戦後間もないときとおなじように、新しいモデルを創出することができるのです。」
フランシス・フクヤマ
日系三世の政治学者。著書「歴史の終わり」は世界的なヒット作に。
このインタビューでは、中国がテーマです。
中国は民主化するのかどうか。
最近、習近平体制が強化されたため、内容的には少々古く感じてしまいます。
一方、日本の安倍外交については高い評価を与えており、国連安全保障理事会の常任理事国入りには、経済の立て直しが先決であり、国際的な発言力を高める必要があると指摘しています。
ダロン・アセモグル
トルコ出身の経済学者。「国家はなぜ衰退するのか」は全米ベストセラーとなりました。
国家制度が「包括的(inclusive)」だと国家は持続的に繁栄できるが、「収奪的(extractive)」だと国家は繁栄しないというのが、「国家はなぜ衰退するのか」の趣旨。
「包括的(inclusive)」とは、社会資本の整備や教育制度を通じて、国民の経済活動の自由を支援している制度を指しています。
先進国の多くが包括的な国家制度を持っています。
逆に「収奪的(extractive)」とは、強制労働、職業選択の自由はなく、
有力者とコネクションを持たなければ財産権も脅かされるという制度の国々です。
北朝鮮やアフリカの多くの国々などが、この収奪的な国家といえます。
ただし、日本は収奪的な制度が残る包括的制度の国ですから、国家の繁栄のためにはもっと包括的な制度を導入する必要があるようです。
クリス・アンダーソン
「フリー」「ロングテール」「MAKERS 21世紀の産業革命が始まる」などの著作が世界的にヒットした元WIRED編集長で実業家。ここでは3Dプリンターがまきおこすであろう、21世紀の産業革命について、事例をもとにインタビュー。
「プラットフォームをつくり、それが賛同できるものであったなら、彼らは自らこちらへやってきてくれる。企業はより簡単になり、ニッチな商品がどんどん生まれてくるなかで、これからのモノづくりでは、コミュニティを介した共同開発に温気を重きを置く会社が成功するという流れになるでしょう。」
リチャード・フロリダ
都市社会学者。「新クリエイティブ資本論」「クリエイティブ都市論」などで全米ベストセラー。
科学者、エンジニア、建築家、デザイナー、アーティスト、ミュージシャンなどのほか、ビジネスでは知識労働者のことを「クリエイティブ・クラス」と定義し、彼らが集まる都市は反映すると説きました。
日本には、「クリエイティブ・クラス」をひきつける条件が欠けており、英語が通じないことも彼らを集めることができない要因となっていると指摘しています。
クレイトン・クリステンセン
経済学者。「イノベーションのジレンマ」が世界的なベストセラーに。
このインタビューでは、イノベーションには3つの種類があると説明しています。
1.エンパワリング・イノベーション
精巧で高価な製品を、シンプルで手ごろな価格に変えるイノベーション。実際の仕事を創出します。
2.持続的イノベーション
古い製品が新しい製品に置き換わるだけ。3.エフィシエンシー・イノベーション
すでに販売されている製品を、さらに効率の良い手ごろな価格にするためのイノベーション。仕事を創出しないが、資本を作り出します。
労働プロセスが合理化されるためです。
カズオ・イシグロ
作家。ノーベル文学賞受賞(2017)。
小説「わたしを離さないで」がインタビューのテーマ。
「私が昔から興味をそそられるのは、人間が自分たちに与えられた運命をどれほど受け入れてしまうか、ということです。」
「われわれは大きな視点をもって、つねに反乱し、現状からが脱出する勇気をもった状態で生きていません。私の世界観は、人はたとえ苦痛であったり、悲痛であったり、あるいは自由でなくても、小さな狭い運命のなかに生まれてきて、それを受け入れるというものです。みんな奮闘し、頑張り、夢や希望をこの小さくて狭いところに、絞り込もうとするのです。そういうことが、システムを破壊して反乱する人よりも、私の興味をずっとそそってきました。」
なるほど。
興味の有無は色々ですが、一読をおすすめしたくなる本でした。
<関連の投稿>
【本多 静六】「私の財産告白」「私の生活流儀」
【一田和樹 江添佳代子】「犯罪『事前』捜査」 知られざる米国警察当局の技術
【木ノ内 敏久】「仮想通貨とブロックチェーン」
コメント
コメントを投稿