ひさびさの湊かなえ作品「豆の上で眠る」読了。
長距離移動なので、何か本を、と思ってコンビニで購入しました。
本のタイトルが「豆の上で眠る」と思わせぶりなのと、帯にあった「誘拐」「本物」という言葉に踊らされて購入。
一気読みでした。
さすが!
湊かなえ作品。
豆の上で眠る (新潮文庫) | ||||
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小学生の妹が語り手
「豆の上で眠る」は、よくいわれる湊かなえ作品のような、読者の気分が滅入るタイプの作品ではありません。大学生となった妹が、帰京するあいだに徐々に子どものころの記憶を取り戻しながら、2歳年上の姉の誘拐事件を語ります。
本作は、子どもの視点から描かれた誘拐物語なのです。
姉がいなくなったのは、珍しくふたり一緒に外で遊んだ夏の日。
姉は身体が弱く、読書家。
妹は、外で遊ぶのが大好き。
顔も似ておらず、性格も異なる姉に対して、どこか劣等感を抱きながらも、大好きでたまらない妹。
「もしかしたら私はこの家の子どもじゃないのかも」
子どものころに、誰もが思い感じる、自分だけが家族と違うのではないか?という疑問が、この物語の土台となっていることに気づきます。
誘拐事件から2年後に戻った姉は他人!?
誘拐された姉は、2年後に突然戻ってきます。しかし、一目見て妹は、姉ではないと直感します。
さらに祖父母も疑いはじめ、ついにはDNA鑑定を行うことになります。
結果は、妹の期待を裏切って、親子関係が立証されるのです。
こんなふうに書いてしまうと、いかにも簡単なことのように感じますが、実は姉が不在の2年間、妹は母の企みにより、近所で疑わしいと母が判断した家々を、「猫がいなくなった」といって探させられるのです。
母の姉に対する執着の強さは、子どものころの記憶として再三再四、描かれます。
姉には似あうけれど、妹には似合わない服をお揃いで買ってくる母。
身体の弱い姉につきそう母。
いつも一番に母が考えるのは姉。
そんな妹は、「もし自分が誘拐されたら、母は姉にこんなことをさせるだろうか?」と疑問に感じます。
そんな行動は、周囲にも「誘拐犯探し」と噂になり、妹は徐々に学校でもいじめの対象となってしまいます。
誘拐は取違えの解消策だった
途中から、なんとなくネタがわかってくるので書いてしまいますが、姉の誘拐は誘拐ではなく、むしろ姉の自発的な失踪であったことが最後の最後に明かされます。その理由は、出生直後の取違え。
しかも、ミスではなく意図的に行われた取違えだったのです。
誘拐以前の姉は実の姉ではなく、誘拐後に戻ってきた姉が本当の姉。
妹は、誘拐以前の姉の面影を追い続け、本当の姉を拒絶してしまうのです。
しかも、両親は姉の取違の事実を受け入れ、本当の娘が戻ってきたのだ、これで終わったと思ってしまい、妹には真実を明かしません。
妹が感じる違和感にも、真剣に向き合いませんでした。
一方、妹から拒絶され続ける姉は、本当の家族のなかにあって孤独を感じていたのです。
妹が感じる孤独と姉が感じる孤独。
同じ孤独でも、こんな風に違ってしまうものなのか、と思います。
事件に巻き込まれた家族
小さな子どもの事件報道を見ると、この家族はどうなるのだろうか、といつも思ってしまいます。子どもが行方不明になった家族、とくに兄弟・姉妹は、いなくなった兄弟や姉妹が一番で、自分たちはその次、という思いをしないのだろうか?
心の大半が、いなくなった兄弟・姉妹で埋められてしまった両親のもとで育った子どもは、どんな闇を抱えるのだろうか?
「豆の上で眠る」は、取違えという問題の渦中にある家族をテーマにした物語です。
はっきりとは指摘できない違和感を、理性で解決できる大人の目線で語らず、小学生の
子どもの目線で語ったところに、本作のすべてがあるように思います。
リバース (講談社文庫) | ||||
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