ミステリー作家・岡嶋 二人の「クラインの壺」読了。
本書は1989年に発表された、岡嶋 二人としての最後の作品。
当時、岡嶋作品のファンだったので当然読んでいたのですが、先日、書店で見かけて購入し、再読しました。
クラインの壺 (講談社文庫) | ||||
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著者の岡嶋 二人は、徳山諄一と井上泉(現・井上夢人)による共作作家。
コミックでは、原作と作画で役割分担が珍しくありませんが、ふたりでひとつの作品を生み出すって、どんなだろう?と興味をもった作家でした。
1982年
「岡嶋二人」名義による『焦茶色のパステル』で第28回江戸川乱歩賞を受賞して作家デビュー。
1985年
『チョコレートゲーム』で第39回日本推理作家協会賞受賞。
1988年
『99%の誘拐』で第10回吉川英治文学新人賞を受賞。
と、華々しい経歴で、作品が本当に面白かったのです。
テーマはVR(ヴァーチャル・リアリティ)
岡嶋作品のおもしろさを支えたひとつが、本作でも描かれている近未来性。本作では、おおがかりなアーケード・ゲームの開発のために原作を提供した主人公が、ゲームのテストを続けるうちに、あまりにリアルなVRの世界と現実とを区別できなくなり混乱していきます。
人間の五感のすべてが現実のように感じられるうえに、ゲームのなかに現実の世界が再現され、ゲームの登場人物なのか、実在する人物なのかもわかりません。
ゲーム機に入る前の初期設定で、視力の調整をする場面などは、いま読んでもリアルです。
位相数学「クラインの壺」
岡嶋作品のもうひとつのおもしろさの源泉が、数学や化学などの知識を駆使したトリックです。本作では、位相数学が登場します。
位相数学というのは、穴の数が重要な数学で、たとえばドーナツとコーヒーカップは同じ仲間なのです。
本作のタイトルにもなっている「クラインの壺」は、メビウスの輪の立体版でチューブのようなもの。
裏も表もないもので4次元のものらしいです。
主人公は、このタイトルそのものの経験をしていくのです。
何が現実で、何がVRなのか?
CIAの秘密兵器?
主人公と一緒にテストプレイヤーをしていた女が行方不明になり、その友達だという女と、その元カレが登場し、謎はいっきに膨らんでいきます。アメリカで5年前に起こった、病院を巡る不可思議な事件。
CIAが、洗脳や拷問をVRをつかっておこなう機器の開発を行っているのではないか?
しかも日本で。
そして、その謎を解決すべく主人公は行動に起こすのですが・・・。
クラインの壺にとらわれてしまった主人公
クライマックスの緊迫感には、読む手が止まりません。主人公がCIAの陰謀と信じたストーリーは、結局VRで見せられたゲームの内容だった。
主人公は、クラインの壺の、表と裏がつながった世界に取り込まれてしまったのでした。
もちろん、読者も謎が解けないままに、クラインの壺に取り込まれてしまいます。
トリックは読者にも仕掛けられていたのです。
NHKでドラマ化されていました
わたしは見ていませんが、NHKでドラマ化していました。夕方のジュニア向けです。
ぜひ再放送していただきたいですね。
どんなふうに映像化されているのか見てみたいです。
脚本に原作者自身が参加しているですよ。
岡嶋作品では、ほかに「99%の誘拐」や「チョコレートゲーム」が2時間サスペンスとして放映されたみたいです。
どちらも見ていませんが・・・。
そして、どちらも原作小説は名作です。
再読したいミステリー作家
岡嶋二人作品は、全作読んでいたかと思っていましたが、タイトルに記憶がないものがあったりして、あらためて読み直したい作家です。なぜかといえば、「クラインの壺」があまりに面白くて、一気読みだったからです。
25年前に読んだときも一気だったと思いますが、25年経っても色あせないトリック(本作の場合は読者にかけられてます)。
携帯電話やパソコンがないのに違和感のない世界観。
古さを感じない文体など、岡嶋作品の質の高さを改めて認識しました。
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