【加藤 シゲアキ】「ピンクとグレー」





NEWS・加藤シゲアキさんの処女作「ピンクとグレー 」読了。

休み中に映画「ピンクとグレー」を観て、思っていた以上に面白く、これは原作が読みたいぞ、と気持ちがムクムクと動きました。

ピンクとグレー
by カエレバ

映画は、Hey Say Junp!の中島裕翔が主演、ダブル主演のような形で菅田将暉(ホントになんにでも出てる)が相手役を務めています。

どちらも実力ある若手俳優として認知されていますよね。




芸能界に入る親友同士のふたり

小学校のときに出会った「ごっち」と「りばちゃん」。

青学と思われる、この高校生男子ふたりが、一緒にはじめた雑誌モデルの仕事を契機に芸能の世界に足を踏み入れます。

ドラマのエキストラから頭角をあらわした「ごっち」こと白木蓮吾に対し、「りばちゃん」こと河鳥大は25歳になってもフリーターのまま、ときたまエキストラに出るような生活をしていました。

しかし、俳優として絶頂のときに白木蓮吾は自殺。

河鳥大の生活は一変していきます。



わかりにくさが魅力。構成がうまい映画

簡単にまとめるとこんな感じですが、映画の前半は、「りばちゃん」が「ごっち」役を演じる映画、という設定になっています。後半になって、やっと白木蓮吾が自殺したことが明らかになり、親友である白木蓮吾との比較で苦しむ河鳥大という人物を描いています。

映画版の白木蓮吾と現実の河鳥大のどちらも中島裕翔が演じているので、わかりにくい感じもしますが、すんなり入ってきます。

構成がいいんですかね。

まず、この展開で「お、この映画おもしろくなりそう」と思わせてくれました。

しかし、映画では最後まで人気が出ないで終わってしまいそうな「りばちゃん」が、「ごっち」の自殺の真相が姉の死にあることを知って、諸行無常な感じになって終わってしまいます。

終わり方が、なんとなく消化不良な感じ、でした。


「傑作」といって良い原作

で、原作の小説です。

傑作だと思いました。

「りばちゃん」視点で書かれた幼い頃のエピソードと、成長してからのエピソードが交互に配置されていて、最初は「エピソードしか書けないからこういう構成なのかな」と感じました。

ところが、この構成が実に良いのです。

楽しい子ども時代と対比される「りばちゃん」のネガティブな心模様に幻惑されるというか、引き込まれてしまいます。

つまり、効果的なのです。

大学生になったふたりが2年間の同居を、結局は解消することになるエピソードも、こころが痛くなりました。

「ごっち」は自分を必要としてくれると信じて次の新居を探す「りばちゃん」。

「りばちゃん」は、大学生で親友同士の自分たちの間に大きな違いがない、と思い込んでいます。

一方の「ごっち」も、自分たちにとって最適な新居を決めていました。

芸能人としてセキュリティを重視する「ごっち」と、今までとは何も変わらないと思い込んでいる「りばちゃん」。

このあたりは、スタートアップ企業でもよく見る光景だな、と感じました。

ふたりで始めたことなのに、企業の成長とともに、ふたりの考えが合わなくなり、さらなる飛躍の段階でどちらか一方がいなくなる。

よくある話です。

このあたりを読んでいたとき、わたしのなかでは、まだまだ「よくかけてる小説」くらいの評価でした。

たとえば、こんな表現が印象的です。

僕らの磁石の間に強力で分厚い磁石が挟まったのだ。 
僕らはそれに引きつけられているが、阻まれてもいる。離れることも向きを狩ることもできず、僕らはそこにいるしかないのだ。 
一枚向こうにいる彼をもう二度と確かめることはできない。


目線の変化がわかると理解できる構成

しかしこの後、5年ぶりに同窓会で再会した「ごっち」と「りばちゃん」は、その後ふたりだけでバーで飲み、翌日も飲む約束をします。

そして、約束の時間に白木蓮吾のマンションの部屋に行くと、そこには首をつった彼の姿が・・・。

「りばちゃん」はこの自殺事件に深く関わることになり、「りばちゃん」目線の白木蓮吾の本を書くことになります。

この本の内容が、映画版の映画部分のストーリーであり、本書の前の部分7割くらいが、これにあたります。

そして、白木蓮吾の死によって河鳥大は輝き始め、自ら書いた本の主演(白木蓮吾役)となります。

演じることで、白木蓮吾を理解していく河鳥大こと「りばちゃん」。

映画撮影に入ってからの物語は、「りばちゃん」が、白木蓮吾の死の真相を、役者として演じることで理解していく様を描いています。

しかし、それは精神的にも肉体的にも苦しいことでした。

僕に内在する二色は混ざらずに分離したままそれぞれを汚し合い、それら自身を擁護する。 
それでも僕は強制的に混ぜることでしか、次の新たな記憶を留保する方法を持っていない。

二人とも自殺?のラスト

この物語の最後は、とても悲しい。

分かれて、生活の基盤も価値観も別々になってしまった「ごっち」と「りばちゃん」でしたが、「りばちゃん」は白木蓮吾を演じることで、「ごっち」の虚無感を知ってしまいます。

再会したとき、「ごっち」はオニアンコウの話をします。

オスがメスの身体と一体化するオニアンコウに「ごっち」はなりたい、と語ります。

河鳥大は、白木蓮吾の自殺シーンの撮影現場で亡くなってしまったのかもしれません。

そんな暗示のあるラストシーンです。

このラストには、ふたりで楽しく話したオニアンコウのエピソードが投影されているように思いました。

アイドルが書いた、という色眼鏡を外して、手にしてもらいたい小説です。


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