サム・キーン氏 |
「スプーンと元素周期表 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)」読了。
著者は、アメリカのサイエンス・ライター。
水銀が気になって仕方なかった子ども時代の話から、大学時代に元素にまつわるエピソードを教えてくれた先生の話など、本書は、元素にまつわる人類の歴史を描いたもの。
化学は高校時代に勉強しただけですが、大好きな科目のひとつでした。
なかでも周期表は、列ごとにその性質が整理された、ある種の完成形だと思っていました。
ところが、私も含めて多くの人が知っている周期表は、たくさんある周期表のひとつでしかないとは!
こんなショッキングなことを知らされては、どんどん読むしかありません。
そして、本書はドンドン読み進めることができる、楽しいエピソードが満載なのです。
ナチスドイツが大量購入したタングステン
タングステンは、鋼鉄に加えると質の高いドリルの先端やノコギリなどを作ることができますが、この性質から、ナチスドイツが大量に購入していたのだとか。当時の産出国であるポルトガル(の指導者サラザール)は、タングステンで大儲けしたというのです。
タンタルとニオブにはさらに血なまぐさいストーリーが。
携帯電話の小型化とコンゴ内紛
この二つの元素が含まれているコルタンが、携帯電話の小型化に必要な鉱物として注目を集めたことから、コンゴの内紛が激化。しかもコルタンが実に簡単に掘り出せることから、コンゴの農民が農作物を作らなくなり、食糧不足からゴリラを食料にする(絶滅)など、自然破壊が進みました。
アフリカの紛争において、先進国が資金供給してしまうことはよくあることです。
アフリカが豊潤な資源大陸であり、部族間抗争がなくならない限り、今後もこのようなことがあるのでしょう。
イタイイタイ病: ーさらなる科学の検証を | ||||
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戦争とカドミウムとイタイイタイ病
当然のことながら、日本の「イタイイタイ病」についても詳細に記載されています。原因となった元素はカドミウム。
日露戦争と第一次世界大戦によって、日本の金属需要、中でも亜鉛の需要が高まりました。
戦車や軍艦、航空機などに使われたそうです。
その亜鉛と同じ列にあるカドミウムは亜鉛と混ざり合って採掘されるため、必要のないカドミウムが川に流されたことにより、流域の水田のコメを食べた人々が「イタイイタイ病」になりました。
カドミウムは、体内に取り込まれると亜鉛と置き換わり、カルシウムの吸収を阻害します。
また、カドミウムは、他のミネラルに置き換わってふるまうため、当時の不足気味の食糧事情も、病気の悪化を早めたと判断されました。
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食塩にヨウ素を添加する欧米
もうひとつ、日本人はあまり意識したことがないヨウ素について紹介しておきます。日本人は、食卓に海藻や海産物が並ぶため、食事で十分な量のヨウ素が摂取できるので、食塩にヨウ素は含まれていません。
しかし欧米では、出生異常や知能発育不全などを防ぐために、食塩にヨウ素を添加することを義務付けているのだそうです。
知りませんでした!
元素の発見は人類の歴史そのもの
元素の話は、放射性元素のウランやプルトニウム、宇宙の話にまで拡大する一方で、化学者同士の諍いといった、非常に人間臭い話まで網羅しています。歴史好きの私にとって、本書は出会うべくして出会ったとしか思えません。
化学・科学が好きな方にはもちろんのこと、人類の歴史を、違った角度から知りたい方におすすめです。
著者 サム・キーン公式サイト
http://samkean.com/index.html
スプーンと元素周期表 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫) | ||||
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