「戦国武将の精神分析」読了。
戦国時代の武将たちを、脳科学の視点から読み解いていくという、挑戦的な内容です。
NHK-BSで放送されている「英雄たちの選択」でおなじみの、脳科学者・中野信子さんと、戦国時代の専門家・本郷和人さんの対談集です。
いずれも戦国時代を語るうえで、欠かせない人物ばかりです。
父・斎藤道三にかわいがられなかったことが父殺しの原因と分析されており、愛情の裏返しの殺人と結論付けられています。
政宗の決断は、集団(家)を優先して自分を殺した結果、父を殺すという結論に至ったと分析。
優秀な武将の多くがサイコパスであると分析。
信長の鎧が残っていないのも、恐怖心を感じないサイコパスだったから、と言えるのだとか。
秀次は誇大妄想のパラノイアと分析。
ここでは、マイクロキメニズムという、粘膜接触で細胞が混入が起こり、本来は持っていないはずの遺伝子が獲得されるという研究について紹介されています。
日本一短気な人と歴史上も評価される、境界性パーソナリティー障害が疑われる人物。
怪我や病気で、ドーパミンの量が変化したのではないかと分析。
正義の人は不寛容であるため、謙信は家臣団から裏切られています。
しかし、その頭の良さは問題解決能力に限られていて、問題を設定する創造性には欠けていたとしています。
前例に従ったほうが生存戦略として有利な中国地方には、セロトニンが少ないほうが良いからではないか、と分析。
しかし、乱世にはアスペルガー症候群の疑いがある人物が登場し、時代を変えるとも。
オキシトシンの濃度が高い人物として、淀殿が取り上げられていますが、逆に濃度が薄い人物として徳川家康が登場します。
愛着の形成期(幼児)に母親などから引き離されると、オキシトシンレセプターが生えなくなり、特定の人物に対する愛着が乏しくなります。
徳川家康の場合、子どものころは人質として織田家、今川家にいて養育者が頻繁にかわったり、複数の養育者がいたりしたことから、特定の人物と情緒的な絆がないのです。
家康のような人は、「人は裏切るものだ」と考えていて、誰も信用できません。
逆にオキシトシンが出やすい、濃度の高い人で、養育者との距離に波があると不安定な愛着が生まれやすくなります。
親の都合が良いときには可愛がり、親の意に沿わないときには突き放す「条件付きの愛情」で育った人は毒親になりやすいのだそうです。
また、オキシトシンの絆で結ばれた社会や地域では、なによりも秩序が大事とする価値観になりやすいという特徴があります。
セロトニンが不足すると、他人を信用せず、復讐心を増大させます。
毛利元就の行動は、セロトニンが少ないためとされています。
またセロトニンが少ないと、他者から何をされたかを忘れないため、恨みを忘れず、忘れられたころに仕返しをしたりします。
日本人は、世界的に見てもセロトニンが少ない国民であるため、不条理な仕打ちに対して世界一理不尽を感じやすく、コストをかけても相手にイヤな思いをさせたいと考える国民性なのだそうです。
さらに輪をかけてセロトニンが少ないのではないか?と疑われるのが中国地方。
山口県出身の総理大臣が多いことは、第2次世界大戦などの戦争の結果を招いているのではないかという見解も披露されています。
自己評価には、顕在的自己評価と潜在的自己評価があります。
伊達政宗は、顕在的的自己評価が高く(高くふるまう必要があった)、潜在的自己評価が低い人物だったととらえると、「伊達男」という言葉の語源ともなった政宗の実像が見えてきます。
つまりパフォーマンスが上手。
しかし政宗が、自己評価が低かったと思われる行動として、一度は出てしまった人物を再び迎え入れる例があげられています。
自己評価が高い人は、一度は出ていった人物を受け入れたりせず、懲罰的な処置を行って、組織からの離脱を行いにくくするのだそうです。
また、自己評価が高くない人は、正面からぶつからず、匿名性の高い手段をつかって相手にダメージを与えようとします。
ネットではよく見る人たちですが、彼らは自己評価が低い人たちと認識すると、見えてくるものがあります。
また、潜在的自己評価が低いとナルシストになりますが、顕在的自己評価が低く、潜在的自己評価が高いとプライドが異常なまで高く、激しい攻撃性を持ち、誇大妄想的になります。
つまり、自分は特別、と考えるようになります。
1980年代以降、先進国の若者の自尊心は急激に高まっているという研究結果もあります。
自己評価が高い、プライドばかりが高い若者が増えているのは、時代なのかもしれません。
本書のなかでは、齋藤義龍と武田信玄があげられていますが、どちらも、生まれたころに父親が長期不在であり、一緒にいる時間が少ないために、父から可愛がられなかったのではないかと分析しています。
子どもと共有した経験の多さが、男性の脳を父親の脳をつくるため、育休は男性にこそ大事な時間なのです。
十分に父親の脳を育んだ男性は、家庭内で妻や子どものために多くの時間を割き、料理も良くするという研究結果もあるくらいです。
脳内ホルモンだけでなく、父親の脳をもって子どもに接するかどうかによっても、その後の人生が変わってしまうことがわかります。
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戦国時代の武将たちを、脳科学の視点から読み解いていくという、挑戦的な内容です。
戦国武将の精神分析 | ||||
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NHK-BSで放送されている「英雄たちの選択」でおなじみの、脳科学者・中野信子さんと、戦国時代の専門家・本郷和人さんの対談集です。
戦国時代を語るうえで欠かせない14人
「戦国武将の精神分析」のなかで取り上げられているのは合計14人。いずれも戦国時代を語るうえで、欠かせない人物ばかりです。
第1章 家族殺しという病
齋藤義龍
父を殺した人物は、戦国広しといえど齋藤義龍のみ。父・斎藤道三にかわいがられなかったことが父殺しの原因と分析されており、愛情の裏返しの殺人と結論付けられています。
伊達政宗
誘拐された父・輝宗を、二本松(畠山)義継もろとも殺してしまいます。政宗の決断は、集団(家)を優先して自分を殺した結果、父を殺すという結論に至ったと分析。
徳川家康
長男・信康を殺してしまうという選択に至ったのは、人は裏切るものとして育った家康だから、という分析がなされています。淀殿
元祖・毒親として、合理的な判断ができずに、息子・秀頼ばかりでなく、豊臣家を滅ぼしたと分析。第2章 サイコパスの疑いあり
武田信玄
人を支配するということをわかっていた人物。優秀な武将の多くがサイコパスであると分析。
織田信長
美的センスと良心、正しい正しくないは、脳のほぼ同じ領域で処理されているため、サイコパスであれば、美的センスは持っていないはず。信長の鎧が残っていないのも、恐怖心を感じないサイコパスだったから、と言えるのだとか。
松永久秀
茶釜・平蜘蛛とともに爆死したとして知られる、美に執着したソシオパス(後天的なサイコパス)として分析されています。豊臣秀次
秀吉の甥ですが、結局は秀吉に殺されます。秀次は誇大妄想のパラノイアと分析。
第3章 女の選び方と異常性愛
徳川家康
実は同性愛の遺伝子を持っていたのではないか?という新説が飛び出す家康の戦略について、くわしく分析しています。ここでは、マイクロキメニズムという、粘膜接触で細胞が混入が起こり、本来は持っていないはずの遺伝子が獲得されるという研究について紹介されています。
細川忠興
妻・ガラシャ(明智光秀の娘)のストーカーのような夫。日本一短気な人と歴史上も評価される、境界性パーソナリティー障害が疑われる人物。
島津忠恒
戦国DQN四天王の一人だそうです。大友宗麟
多動障害が疑われる前半生から、まったく違う人物かと思われるほどに変わってしまう後半生。怪我や病気で、ドーパミンの量が変化したのではないかと分析。
第4章 名将に欠乏したもの
上杉謙信
女性的で、合理的な選択を下せなかったのは、オキシトシンが多かったからではないかと分析。正義の人は不寛容であるため、謙信は家臣団から裏切られています。
豊臣秀吉
戦国時代でも飛びぬけてIQが高かったのではないかと分析。しかし、その頭の良さは問題解決能力に限られていて、問題を設定する創造性には欠けていたとしています。
毛利元就
猜疑心が強く、不安を感じやすい人物。前例に従ったほうが生存戦略として有利な中国地方には、セロトニンが少ないほうが良いからではないか、と分析。
石田三成
空気を読めなかった、アスペルガー症候群の疑いが濃厚。しかし、乱世にはアスペルガー症候群の疑いがある人物が登場し、時代を変えるとも。
オキシトシンとセロトニン
「戦国武将の精神分析」のなかで、たびたび登場するのが、脳内物質であるオキシトシンとセロトニンです。オキシトシンと愛着
オキシトシンは、別名「絆ホルモン」「愛情ホルモン」と呼ばれますが、オキシトシンの分泌の濃淡にによって、考え方や行動が決まってきます。オキシトシンの濃度が高い人物として、淀殿が取り上げられていますが、逆に濃度が薄い人物として徳川家康が登場します。
愛着の形成期(幼児)に母親などから引き離されると、オキシトシンレセプターが生えなくなり、特定の人物に対する愛着が乏しくなります。
徳川家康の場合、子どものころは人質として織田家、今川家にいて養育者が頻繁にかわったり、複数の養育者がいたりしたことから、特定の人物と情緒的な絆がないのです。
家康のような人は、「人は裏切るものだ」と考えていて、誰も信用できません。
逆にオキシトシンが出やすい、濃度の高い人で、養育者との距離に波があると不安定な愛着が生まれやすくなります。
親の都合が良いときには可愛がり、親の意に沿わないときには突き放す「条件付きの愛情」で育った人は毒親になりやすいのだそうです。
また、オキシトシンの絆で結ばれた社会や地域では、なによりも秩序が大事とする価値観になりやすいという特徴があります。
セロトニンと不安や協調性
セロトニンは、不安を感じやすくする一方で、協調性や誠実性をたかめます。セロトニンが不足すると、他人を信用せず、復讐心を増大させます。
毛利元就の行動は、セロトニンが少ないためとされています。
またセロトニンが少ないと、他者から何をされたかを忘れないため、恨みを忘れず、忘れられたころに仕返しをしたりします。
日本人は、世界的に見てもセロトニンが少ない国民であるため、不条理な仕打ちに対して世界一理不尽を感じやすく、コストをかけても相手にイヤな思いをさせたいと考える国民性なのだそうです。
さらに輪をかけてセロトニンが少ないのではないか?と疑われるのが中国地方。
山口県出身の総理大臣が多いことは、第2次世界大戦などの戦争の結果を招いているのではないかという見解も披露されています。
自己評価の高低で振る舞いが変わる
分析のなかで、自己評価の高低で、振る舞いが変わることも明らかになっています。自己評価には、顕在的自己評価と潜在的自己評価があります。
伊達政宗は、顕在的的自己評価が高く(高くふるまう必要があった)、潜在的自己評価が低い人物だったととらえると、「伊達男」という言葉の語源ともなった政宗の実像が見えてきます。
つまりパフォーマンスが上手。
しかし政宗が、自己評価が低かったと思われる行動として、一度は出てしまった人物を再び迎え入れる例があげられています。
自己評価が高い人は、一度は出ていった人物を受け入れたりせず、懲罰的な処置を行って、組織からの離脱を行いにくくするのだそうです。
また、自己評価が高くない人は、正面からぶつからず、匿名性の高い手段をつかって相手にダメージを与えようとします。
ネットではよく見る人たちですが、彼らは自己評価が低い人たちと認識すると、見えてくるものがあります。
また、潜在的自己評価が低いとナルシストになりますが、顕在的自己評価が低く、潜在的自己評価が高いとプライドが異常なまで高く、激しい攻撃性を持ち、誇大妄想的になります。
つまり、自分は特別、と考えるようになります。
1980年代以降、先進国の若者の自尊心は急激に高まっているという研究結果もあります。
自己評価が高い、プライドばかりが高い若者が増えているのは、時代なのかもしれません。
シャーデンフロイデ | ||||
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父親になるには一緒にいる時間の長さが大事
戦国武将のなかでも、父親の愛情を得られなかった人物がいます。本書のなかでは、齋藤義龍と武田信玄があげられていますが、どちらも、生まれたころに父親が長期不在であり、一緒にいる時間が少ないために、父から可愛がられなかったのではないかと分析しています。
子どもと共有した経験の多さが、男性の脳を父親の脳をつくるため、育休は男性にこそ大事な時間なのです。
十分に父親の脳を育んだ男性は、家庭内で妻や子どものために多くの時間を割き、料理も良くするという研究結果もあるくらいです。
脳内ホルモンだけでなく、父親の脳をもって子どもに接するかどうかによっても、その後の人生が変わってしまうことがわかります。
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