「公開法廷:一億人の陪審員」読了。
今週は一田和樹ウィークです。
「内通と破滅と僕の恋人 珈琲店ブラックスノウのサイバー事件簿」にひきつづきのブックレビューです。
「内通と破滅と僕の恋人 珈琲店ブラックスノウのサイバー事件簿」がボーイズラブ(BL)ライトノベルだとすると、こちらは近未来フィクションです。
といっても、「公開法廷:一億人の陪審員」に登場する企業や事件は実在のものという内容です。
公開法廷:一億人の陪審員 | ||||
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「犯罪『事前』捜査」 知られざる米国警察当局の技術
「公開法廷:一億人の陪審員」は、今年の夏に発刊された『犯罪「事前」捜査 知られざる米国警察当局の技術』がベースとなって、著者の想像力が紡ぎだしたフィクションです。
もうひとつあるとすれば、人工知能をテーマにした「ウルトラハッピーディストピアジャパン 人工知能ハビタのやさしい侵略」も影響しているかもしれません。
もうひとつあるとすれば、人工知能をテーマにした「ウルトラハッピーディストピアジャパン 人工知能ハビタのやさしい侵略」も影響しているかもしれません。
本書は、SNSが世論を形成する現代において、国民全員が陪審員となって犯罪者を裁くとしたら・・・という物語です。
『犯罪「事前」捜査 知られざる米国警察当局の技術』でも紹介されていた、付近の携帯電話情報を根こそぎ抜き出す「スティングレイ」やSNS分析ツール、ロシアのフェイクニュースによる世論操作などが、物語の随所で解説され、ありそうもないと感じる物語の信憑性を高めています。
人工知能がSNSを支配する
AI(人工知能)がSNSでアカウントを持ったら・・・。
実際に行われている実験であり、国によっては兵器でもあります。
実際のところSNSは、より大きな声、より数の多い意見になびく傾向があります。
悪い噂は、それを上回る数の良い噂の投稿やツイートで凌駕することができます。
このようなレピュテーション(評判)攻撃は、AIbot(人工知能のロボットアカウント)
の得意とするところであり、本書の中核には、このレピュテーション攻撃が描かれています。
そして、トランプ大統領誕生の裏にも同様のことが行われていた、と何度も本書のなかで登場します。
世論形成のために人間ではないトロール(人工知能のロボットアカウント)が投入され、一般人は簡単にコントロールされてしまう。
しかも、自らの政府ならまだしも他国から!
柔らかい言論統制がすでに始まっているのです。
わたしは大学で「広告論」を担当していますが、オールドメディア(マスメディア)時代にも言論統制を行うことは可能であった、と学生に講義しています。
ただし、目に見える形の言論統制であったために、戦後は大きな反動がありました。
ところが、AIによる柔らかい言論統制や世論コントロールは目に見えず、自分がすべてを決めている(誘導されているとは思わない)ために、コントロールされているとは感じない点がミソです。
これって、ネット時代の広告手法と似ています。
授業でわたしは学生に何度も言っています。
「君たちは自分で選んで買っていると思っているかもしれないけれど、実は買わされているんだよ」と。
3組の検事・弁護人・被告
「公開法廷:一億人の陪審員」は、ネット社会について論文を書こうとしている大学院生が中心となって物語が進行していきます。
国民全員が陪審員となる制度が発足し、証拠が不十分な事件について3名の被告が登場します。
それぞれに検事と弁護人がつきますが、彼らは法律の専門家ではありません。
公開法廷に投票した国民のなかで、成績の良い、つまり投票数の多い被告を選んだ人間からポイントの高い人間がなっているというのです。
公開法廷に投票した国民のなかで、成績の良い、つまり投票数の多い被告を選んだ人間からポイントの高い人間がなっているというのです。
そして、3人の被告がどうして起訴されたのか検事が説明し、これに対して弁護人が反論するという法廷エンターテインメントが、ネット動画として被告1人につき1日、合計3日間配信されます。
陪審員として投票することは国民の義務であるため、誰もが公開法廷を見て、SNSでそれぞれの意見を戦わせます。
ゲーム性が高い公開法廷では検事や弁護人ごとにチームが形成されており、その都度、個人の自由な考えに基づいて投票するわけではない、というSNSでコントロールしやすい状況という設定です。
ありそうなキーワードの羅列が真実を凌駕する
SNSで世論が形成されるということは、ありそうなキーワードが並ぶような事件のほうを大衆は好むのではないか?
「事実は小説よりも奇なり」
といわれますが、事件としてわかりやすい構図を説明した検事の勝率が高い。
つまり、事件の真相はどうであれ、それらしい理由や原因で犯罪が起こったと説明したほうがウケが良い、というわけです。
「公開法廷:一億人の陪審員」では、事件の被告として有罪になる人物は、ある種の勢力にとって都合の悪い人物ということになっています。
そして、ありそうなキーワードで事件を構成しているのも人工知能だとしたら・・・。
そして、ありそうなキーワードで事件を構成しているのも人工知能だとしたら・・・。
ネット投票が間近になっている今こそ読みたい一冊
無実の人間を有罪にできる公開法廷のようなことは、かつても現在もあります。
マスメディアがそれらしく報道すれば、ロクな証拠がなくても、一般大衆は有罪だと思い込みます。
テレビや新聞は、もはや50代以上のメディアなので若者を動かす力にはなりませんが、マスメディアが流した情報がネットにそれらしく流れると、歯止めがきかない洪水のように、どんどん有罪率が高まっていきます。
政治についても同じような傾向はみられます。
世論はそもそも政治家を左右する力があります。
その世論がコントロールできるとしたら・・・・。
日本でも、ネットで政治活動ができるようになり、ネット投票の実現も近づいています。
みんなが支持する意見、世論は疑ってみるということが必要な時代。
インターネットがインフラとなり、メディアとなっている時代だからこそ、手に取ってみたい一冊です。
ただ、文字校閲が甘いので、読んでいて「あれれ」と感じる点が少なくないのが残念なところです。
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