「「おもてなし」という残酷社会: 過剰・感情労働とどう向き合うか」読了。
「過労死」が英語でも「Karoshi」とつづられるほど、日本人に特有の傾向として知られてきています。
これを書いている時点での「過労死」関連ニュース |
なぜ日本人は、滅私奉公するのか?
なぜ日本人は、仕事に振り回されるのか?
労働者の行動や心理に関して、文化的特徴を踏まえた理解がなされていない、という視点からまとめられた本書では、日本人と欧米人の考え方の違いからアプローチしています。
「自己中心の文化」と「間柄の文化」
「「おもてなし」という残酷社会」を通じて語られているのが、「自己中心の文化」と「間柄の文化」です。「自己中心の文化」とは、自分が思うことを思う存分、主張すればよい、自分の意見を基準に判断すればよい、とする欧米流の文化のことです。
一方の「間柄の文化」とは、一方的な自己主張で人を困らせたり、嫌な思いをさせたりしてはいけない、相手の気持ちや立場を配慮するという、日本ならではの文化のことです。
たとえば、こんなチェックリストがあります。
- 相手の依頼や要求が受け入れがたいときも、はっきり断れず、遠回しないい方でことわろうとする
- 相手の意見やアイデアに賛成できないときも、はっきりとは反対しない
- はっきりいわずに、相手に汲み取ってほしいと思うことがある
- 相手の出方をみながら、自分のいい分を調整するほうだ
- これ以上はっきりいわせないでほしい、察してほしいと思うことがある
- 相手の期待や要求を察して、先回りして動くことがある
- 相手の言葉から、言外の意図を探ろうとする方だ
- 相手の気持ちを察することができる方だ
これらのチェックリストに〇が多いほど、「間柄の文化」の住人だということです。
よく言えば共感性が高い。
悪く言えば、はっきりしない。
しかし、誰もが自然に気遣いができる日本人。
こんな文化特性の違いを理解しないままに「顧客満足度(CS)」などという指標を取り入れたために、日本では過剰な要求をする人々を生み出していると、筆者は主張します。
感情労働とバーンアウト
感情労働(Emotional Labour)とは、感情が、労働内容にとって不可欠な要素であり、かつ適切・不適切な感情がルール化されている労働のこと。ひとことで書いてしまうと、人間相手の業務のすべてにおいて、この感情労働が求められています。
いまや日本のGDPの7割がサービス業なので、労働者の過半数以上の人々が、感情労働に従事しています。
典型的なのが、医療従事者・介護従事者・コンタクトセンター従事者など、クレームが発生しやすく、自己裁量権のほとんどない労働者です。
相手が、一方的に誤解していたり、わすれていたり、無知であったり、無礼な言葉づかいであったりしても、そして、怒りや気分、腹いせや悪意、嫌がらせによる理不尽かつ非常識で非礼な要求・主張であっても、自分の感情を押し殺して決して表には出さず、常に礼儀正しく明朗快活にふるまい、相手の言い分をじっくり聴き、的確な対応、処理、サービスを提供し、相手に対策を助言しなければならない労働者のことです。
日本人の多くがこんな状況にあるわけなので、みんなが大きなストレスを抱えています。
そのため、顧客受けがよく模範的な従業員と誰もが思っていた人が、突然、顧客にキレることがあります。
感じが良くて笑顔が売りの従業員が、無反応・無表情になってしまうことも。
これがバーンアウトと呼ばれる、感情労働に疲れた人々の姿なのです。
経営側が悪用する心理学的アプローチ
過労死を招く環境のなかには、経営側が心理学的アプローチを悪用しているという事例もあると紹介しているのが、ワタミです。平成20年4月にワタミフードサービス(現ワタミ)に入社した女性社員が、長時間勤務を行い、6月に自殺したという事件です。
「自分の成長のため」
「独立するため」
といったやりがいを利用して、職場、つまり会社に欠けている部分を補っていて、それをエンジンにして働かせているという実態が、日本の職場には多く見られます。
これらは、自己実現というキーワードのもとに、内発的動機付けや内的報酬といった心理学の概念を利用していると、著者は指摘しています。
これって、企業の大小にかかわらず、毎日のように職場で確認されているやり方です。
「お客さまのありがとうがうれしい」
「こどもの無邪気な笑顔に癒される」
などと思って、安い給料で長時間労働している方々の多くは、この心理学的アプローチに騙されているのかもしれません。
過剰労働・感情労働過多の時代を生き抜くために
感情を抑え込んで仕事をしている人々のなかには、客になったときに、とんでもないモンスターになる人もいます。そんな時代を生き抜くための方法論が、最後に示されています。
- 物事を見る見方を変える(リフーミング)
- 仲間に話し、共感を得る
- 自分の胸のうちを率直に語る
- 腹が立つこと、ムシャクシャすることをノートに書き留める
いずれも目新しくはありませんが、バーンアウトしにくくなる効果があるとされています。
そして、もっとも注目されているのが「レジリエンス」。
心が折れずにいられる、回復力や立ち直る力のことです。
この「レジリエンス」が高い人の特徴として、
- 自分を信じて諦めない
- つらい時期を乗り越えれば、必ず良い時期が来ると思うことができる
- 感情に溺れず、自分の置かれた状況を冷静に眺められる
- 困難に立ち向かう意欲がある
- 失敗に落ち込むよりも、失敗を今後に活かそうと考える
- 日々の生活に意味を感じることができる
- 未熟ながらも頑張っている自分を受け入れている
- 他人を信じ、信頼関係を築ける
という心のクセがあります。
「レジリエンス」が高い人のように、出来事にたいして肯定的な意味づけができるようになるためには、日常生活を充実させることが必要らしいです。
リア充な人々は、苦情を冷静に受け止めることができるという研究結果があり、不満の多い生活をしている人は、攻撃的になってしまうらしいです。
つまりは、自分が幸せでなければ、お客さまも幸せにできない、ということ。
これはサービスの基本です。
他人を引きずりおろすのに必死な人 (SB新書) | ||||
|
「上から目線」の構造 (日経プレミアシリーズ) | ||||
|
「正論バカ」が職場をダメにする (青春新書インテリジェンス) | ||||
|
コメント
コメントを投稿